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外へ出ると、まだ雨が降っていた。
再び小さな折り畳み傘に二人で入ると、濡れた歩道を歩き始めた。
「この分だと、朝までやみそうも無いな」
「そうですね」
返事をしながら、翼は考えていた。
僕の心の雨は、いつかやむときが来るのかな。
もう、永遠にやまない土砂降りのような気がする。
でも、渡さんと一緒にいると、心が安らぐ。
胸の傷が、癒えてゆく。
社内で、男女を問わず人気がある渡主任。
そんな彼を、今独り占めできている小さな喜びが、翼に芽生えていた。
「渡さんは、早く帰らなくてもいいんですか? 誰か待ってる人とか、いないんですか?」
「いないよ。一人暮らしだし、結婚する気も無いし。あ、待てよ。いるぞ、待ってる子が」
「誰ですか?」
「文鳥の、ピピちゃん」
「可愛い!」
そんな話をする余裕が、ようやく翼に現れた。
そんな彼を連れて、和哉はカラオケボックスへ入って行った。
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