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すごいな、と和哉は歌いながらちらりと翼を横目で見た。
しかし、その瞬間、息を呑んだ。
泣いているのだ、翼が。
ぽろぽろと涙をこぼし、もう歌える状態ではなかった。
「どうしたの?」
「すみません。すみません……」
曲が終わるまで、和哉は翼の背中をさすり続けた。
水割りではなくミネラルウォーターを渡し、おしぼりで涙を拭いた。
「この曲……」
「うん」
「彼が、好きだったんです」
「うん」
「カラオケに行くと、いつも一緒に、歌ってたんです」
「うん」
可哀想に、と和哉は翼の肩を抱いた。
この流れからすると、その彼とは。
「別れました。一週間前に」
「そうだったのか」
性格が合わないから、と別れ話を切り出されたと言う。
(峰松くんと合わないなんて、どこの何様だろう)
「泣いていいよ。いっぱい泣いて、忘れなよ」
残り時間の10分、翼は和哉の胸で思いきり泣いた。
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