走馬灯プランニング

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いつどうやって眠りについたのか覚えていない。 いつもの発泡酒ではなく飲み慣れないビールなんて煽ったからだろうか。 気がつけば開けっぱなしのカーテンのせいでベッド脇の窓から燦々と朝日がさす。 いつもと変わらない。 朝からさえずる小鳥がこんなにも疎ましく思った以外は。 佐々木はいつものように身支度をする。 テレビを付ければお気に入りのお天気お姉さんが優しく微笑んでくれる。 昨日脱ぎ捨てたままのスーツにまた腕を通す。少しシワになってしまったがこれくらいどうって事はない。スーツのポケットに手を入れ新しいハンカチと入れ替えた時、折り曲げられた名刺を見つける。 「走馬灯プランニング、、、あぁ、あの女か、、、」 更にクシャクシャにされた名刺はそのままゴミ箱へと投げられる。 いつもの朝と変わらないコーヒーを飲みながらぼぉーっとテレビの先を眺める。 最近流行りの便利な百均グッズの特集が流れている気がするが、聞こえているような聞こえないような、視界には入ってきてはいるが脳が理解するのを拒んでいるような、ただただ味のしないコーヒーをすする。 コーヒーを飲み終え一服するがいつも咳き込む。 この常にある体の怠さ、よくならない咳、これがまさか癌だったとは全く思いもしなかった。もっと自分の体に注意していればよかったのか、会社の人間ドックの再検査をきちんと受ければ癌にはならなかったのか、そう思いながら深くタバコを吸い込むとまたゲホゲホと咳き込み胸が苦しくなる。 涙目になりながらなぜか子供の頃を思い出していた。 「明雄、元気かな、、」 小学生からの幼馴染みだ。正月や盆休みぐらいしか会わないが1年に2.3回は酒を飲みながら近況報告をして語り合う。別に遠くに住んでいる訳ではないがそんなに頻繁に会う事もなく、だからと言って疎遠になる事もなく、たまにメールをしたりしていい距離感を保っている。大人になってからもずっと友達と呼べるのは明雄ぐらいかもしれない。 小さい頃は2人自転車で色々なところに行った。真っ黒に日焼けして泥だらけになったって気にせず森の中を走り回った。枯れた竹の棒を振り回し無敵だと思った。 小さい頃の思い出が走馬灯の様にどんどん浮かんでは消えなんだか目頭が熱くなる。 幼き記憶にしばらく浸っているといつの間にか佐々木はポロポロと大粒の涙を流し泣いていた。 「なんで俺が、死ななきゃならない、、、」 泣きながら怒りがこみ上げてくる。 まだ結婚だってしていないし子供だっていない。そんな普通だと思っていた事が俺にはもう出来ないというのか。 無残に床に投げ出されたスマホを探し出し急いで明雄に電話をかける。 「もしもし、明雄か?」 「なんだよ朝っぱらから今出勤中だぞ、慌ててどうしたんだよ」 「実は俺、俺な、」 「あっ、結婚でもすんのか?」 「違う!そんないいもんじゃない!」 「じゃぁ、なんかまた仕事で取り返しのつかない事でもやらかしたか?」 「違う!でもまあ、取り返しはつかない」 「何言ってんだよお前、とにかく話聞くから、今夜久しぶりに飲みにでも行くか?とりあえずもう会社着くからまた後で連絡する」 そうだよな、こんな朝早くにする話じゃないし聞きたい話じゃないよな。   佐々木は上手く出来ない笑みを浮かべ天井を仰ぎ会社に欠勤の連絡を入れた。
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