眠りの王子

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「思うはあなたひとり」  その後いつもの日常に戻った春樹だったが、この言葉が頭から離れずにいた。  あの後さらに調べたら白い彼岸花にも同じ花言葉があると知った。しかし春樹は白い彼岸花には興味が出ず、あの真っ赤な彼岸花のことばかり考えていた。しかし実際に見に行こうとは思わなかった。いや、行こうとは思ったが何故か思いとどまった。  10月の下旬、学校である事件が起きた。 まあ事件と言ってもたいしたことじゃなく ただ学年で1番人気の男子が谷岡真理に告白した結果見事に玉砕しただけだ。男子はかなり落ち込み、学年中の話題になっていた。  しかしなぜ真理は彼を振ったのか。同じ男子の春樹から見ても男は頭が良く、背も高い。顔を整っているサッカー部の爽やか系男子だ。他に好きな人でもいたのだろうか。  部活に顔を出すと後輩たちから真理は色々聞かれていた。 そんなことは気にせず春樹はケーキ作りに没頭した。 部活が終わり帰ろうとしたら谷岡真理から声をかけられた。 「ねぇ、姫野くん。ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかしら」 2人は近くの公園に向かった。 (来てみたはいいけどこんなところ誰かに見られたら何を言われるか分からないな。しかし谷岡は俺になんの用なんだ) 「なあ、話したいことってなんだ、なにか相談事か?」 春樹が飲み物を持ってベンチに座り真理に1つ渡した。真理はありがとうと言い飲み物を受け取った。 「いいえ、相談事とかじゃないわ」 真理を見てみると下を向いてなにか呟いてる。 「ねぇ、私がなんで彼を振ったか分かる」  真理は唐突に聞いてきた。春樹はただ単に彼が好みじゃなかったからとか、他に好きな人がいるだとか、実はもうそういう人がいるとか考えたが口には出さなかった。 「さあ、誰かに告白されたことなんてないしわからないな」 春樹は答えた。 今まで人に告白などされたことはない、告白したこともだ。春樹はいままで好きな人が出来ても、想いを伝えることが出来なかった。 それは谷岡真理に対しても。 「私ね、好きな人がいるの」 真理は俯きながら答えた。 「そうなんだ」 春樹はあっさりと返事をした。 (やっぱりそうか、まあそうだろうな。でも谷岡の好きな人って誰だ。まさか俺!? でも考えてみたらこんなこと俺に話すってことはやっぱり……)  春樹は頭の中で考えた。真理はおそらく自分のことが好きなんだろう。おそらく中学の途中までの春樹だったら1人舞い上がり、ドキドキしながら真理の言葉を待っただろう。  しかし今の春樹にはドキドキもワクワクもない。考えていることはただ1つ。 (本当にそうだとしたら、どうやって断ろう)  春樹はどう言えば真理を傷つけずにすむか考えていた。以前までの春樹だったらこんなことは考えずに付き合った先の事まで考えたりしてただろう。しかし今の春樹は真理と付き合う気にはなれずにいた。 別に真理のことが嫌いになったわけじゃない。中学時代から変わらず尊敬しているし、その姿に憧れている。しかし中学三年の秋頃から真理に対する気持ちの中から恋心が無くなったのだ。  真理は深呼吸し何かを決心したかのように立ち上がり春樹の前に来た。 2人の目が合ったその時、春樹は突然の頭痛に見舞われた。 「──ッ! 」 春樹は頭をおさえた。 (なんだ、突然) 真理は大丈夫かと声をかけながら春樹を見ている。  痛みがきつくなり目を瞑ると一人の女性の姿が春樹の頭の中に映し出された。 麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た髪の長い女性が春樹の前を歩いている。 (これは、夢の中の) 目を開けると頭痛はひいていった。 「ねえ、大丈夫」 真理が心配そうに聞いてきた。 「ああ、大丈夫だよ。ちょっと目眩がしただけ」 春樹がそう答えると真理はホッと息を吐き、今一度春樹の目を見た。 「あのね、私…姫野くんのことが好きなの。中学の時から、ずっと好きだったの。お願いします。よかったら私と付き合ってください」 真理はそう言うと頭を下げた。 (やっぱりそうだったのか)  先程は断ることだけを考えていたが少し心が揺らいだ。 (やっぱり、本当に告白されると考えてしまうな。別に付き合ってもいいんじゃないか、付き合ってる途中で恋心が芽生えるかもしれないじゃないか) 春樹は返事を出せずにいた。真理は頭を上げはるきを見つめていた。 「えっと……俺……」 春樹はなにか言おうとしたが言葉が出なかった。 (そういえば俺、なんで谷岡のことを好きじゃなくなったんだ。別に嫌いになったわけでもないし、なにかもっと別の……)  また少し頭痛が起こった。そこまで考えると春樹から先程までの迷いは消え真理に言った。 「ごめん、俺他に好きな人がいるんだ」 春樹は自分でも何を言っているか分からなかった。 少し辺りに静けさが漂った。 「そっか……そうだったんだね」 真理は少し間が空いた後でそう言った。顔を見ると涙が流れていた。 「谷岡の気持ちは嬉しい、でも、本当にごめん」 そう言うと真理は首を横に振りはるきの隣に座った。
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