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「可愛い顔をして中身はとんでもない毒婦だって専らの噂だ」
「そうは見えないけど」
「人は見かけによらないものだ」
コソコソと話す声があちらこちらから聞こえてきた。
あえて聞こえない振りをして洗いものを続けた。
「おぃお前ら、口じゃなく手を動かせ‼」
給仕長に怒鳴られ、びくりと肩を震わすと其々の持ち場に慌てて散っていった。
「嫌な思いをさせてすまない」
「いいえ」
首を横に振った。
「オーナーの知り合いか何か知らないが、ここには長居しない方がいいぞ」
「え?」
言っている意味が分からなくて首を傾げると、
「まぁそのうち分かる」
意味深な笑いを浮かべお店に戻っていった。
朝から夜まで一日中立ちっぱなし。
休憩はわずか三十分。華やかなわりにはとてもきつい仕事だけど、そんなの全然苦にならなかった。
こんな僕でもこうして働かせてもらえるんだもの。オーナーにはまだ会ったことはないけど感謝しないといけない。
「お疲れさまです」頭を下げて外に出たもの
一歩、二歩歩いたところでどこから来たのか分からなくなってしまった。
来るときは浩介と一緒だったから迷うことなく着いたけど…………キョロキョロと辺りを見回した。
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