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雨上がりの道はぬかるんでいであちこちに大きな水溜まりが出来ていた。
ちょうど夕げの時刻とあり、七輪で焼いている美味しそうな魚の匂いが辺りに漂っていた。
「かかさま、おなかすいた」
「みつるも」
「おばちゃんが持ってきてくれたカレイの煮魚があるから、それで食べようね」
「うん‼」
ご近所のおばちゃん達がなにかと世話を焼いてくれるから、何とかご飯をたべていられる。感謝しなきゃ。
そういえば、浩介から一度だけ好いている人がいるって聞いたことがある。
誰なの?聞き返したけど上手い具合に話を逸らされた。
そんなことを思い出しながらぼんやりしていて、高さまと充さまに着物の裾を引っ張られるまで、馬車がものすごい速さでこっちに向かってくるのに全く気が付かなかった。
「危ない‼」
咄嗟に二人を抱き寄せ道の端に寄ったものの、大きな水溜まりに車輪を取られた馬車は制御不能に陥り、そのまま突っ込んできた。
周囲が騒然とするなか、ほんの一瞬だけ時が止まったかのように静寂に包まれた。
死を覚悟し目を閉じたもののいつまでたっても痛みが襲ってこなかった。
恐る恐る目を開けると、子供たちと一緒に広くて大きな胸に抱き締められいた。
「えっと・・・・・」
注文品の上品な背広。一目見て高価なものだとすぐ分かる。それが泥まみれになっていた。
「はやみ、さま」
「良かった無事で」
ニコリと微笑むと、止まることなくそのまま走り去った馬車を追うように従者に命じた。
「きみに会いたくて、夜まで待てなくて。探し回っていたら会えた。やはり、きみは俺の運命の人だ」
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