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08
~ タヌキ 視点 ~
あんなに牙を剥いて泣きながら怒ると、逆に怖いんだが……
つーか、俺の昼飯と間食用のパンを全部持っていきやがって
これから授業と、シングル戦があるって言うのに
彼奴は何を考えてんだ?
俺が悪いのか?俺が番にならないから、こんなことになってるのかよ
「 はっ、番なんてなるかよ…… 」
嫁探しに来たはずなのに、
いつの間にか嫁を持つ事を拒否していた
" 番 "その単語は拒絶してしまうほどに、
俺はきっと自分より先に死ぬパートナーなんて見たくないんだ
「 随分と騒がしいな? 」
「 ノア……先生…… 」
聞こえてきた声に視線をやれば、彼は左右其々にアメジスト色の左目と、ダイヤモンド色のシルバーの右目を持ち
三日月に細めれば、アランが座っていた場所へと腰を下ろした
「 なんだよ、説教か? 」
「 五分五分ってところだな。最近の御前達を見てそれとなく察するが、そんなに番を持ちたくないのか? 」
アランと一緒にいる時は見てるだろうな
それに、口振りからして途中から聞いてたに違いない
猫の噂は1日で100マイルを渡ると聞いたことがある
なら、ノア先生には既に噂と真実が混じった事が耳に届いてると思わなくてはならない
「 番を持ちたくない訳じゃない……。ノア先生も知ってるだろ……俺が、アンタと同じってことを…… 」
この獣に嘘をついても仕方無い
7年間此所で、世話になったのだから
今更、隠し事も無意味なほどに誰よりも俺をよく知っている
敢えて伝えれば、彼の眉間の皺は寄り密かに溜め息を吐いた
「 先に死ぬのが嫌か 」
「 当たり前だろ。長に言われて嫁探しに来たのに……。考えれば考えるほど、番を持てば、それだけ辛くなる 」
「 自分を守るために、近付いてきたメスも彼奴も拒絶してたのか 」
「 ……そうだよ 」
図星であり事実だ
俺は、自分が傷付くのが嫌だから
好意を向ける相手を拒絶して、
なに食わぬ顔でこの学園で生活を続ける
行く当ても、7年も経過すれば、里の位置は変わっているかも知れない
帰る場所すら無くなったかも知れない
そんな俺が、学園を離れ…先に死ぬ番を持てば
また1匹になる、それが嫌なんだ
「 御前は年齢を重ねた結果。臆病になったんだな 」
「 ……彼奴はまだ若い。子孫を残すチャンスだってある。幸せな家庭を持ち、子宝に恵まれ、孫の成長を見守ってから、妻と同じぐらいで旅立てる…。羨ましいじゃないか 」
俺には出来ない理想だ
臆病になって、怖くなって、
失うって言うのを見たくなくて
深く関わらないようにしている
其なのに自ら、辛い未来が待ってるような
切られる赤い糸に手を伸ばすわけがない
いっそのこと赤い糸なんて無いと思って、
諦めてた方がいい
「 羨ましいなら、すればいいじゃないか。夢を夢で終わらせるのか? 」
「 500年以上生きてきた結果、理想で終わることを知ったんだ。寧ろ…こんなに長生きで無ければ良かった 」
分かっているさ……
でもな、俺が老けないと死なないと分かれば
彼奴はきっと不器用に笑って、悲しむだろう
大丈夫だと言っても、耳と尻尾が下がる姿が目に浮かぶ
「 俺も9つ命を持っていた猫だった。今は9つ目の猫又として1000年は生きてるが……番がいた時は幸せだったぞ 」
猫は9つの命を持つ
魂は繰り返されることで学び賢くなり、
そして6つ目辺りから喋り始めることが出来る
猫の王は、8つ、9つ辺りの者が多く…
ノア・ブラックもまた猫を束ねる王だった
今は教師としてゆったり過ごしてるらしいがな
番がいた、という過去形なら今はもういないのだろうな
そりゃ千年も生きていれば普通の獣ならとっくに、転生をしてるに違いない
「 あんたは、転生した番を探してるのか? 」
俺の問い掛けに、彼は此方へと視線を向け
僅かに笑みを浮かべた
答えを言うこと無く立ち上がり、肩へと触れ立ち去った
「 まぁ、せいぜい青春はしろよー」
「 青春って、そんな若くねぇよ…… 」
結局、話に来たはずなのに
好きだった番の魂を探してることを悟られて逃げたのか……
いや、ずっとそうだったじゃないか……
ノア先生は出会った時も人間が住んでる街中にいた
そして俺を見付ければ、学園へと連れてきてくれた
それって……誰かを探してたから彷徨いてたんじゃないか?って思う
「 まさか、な…… 」
いつの日から、ノア先生は町に行かなくなっただろうか
そんな事すら考えたこともないぐらい、あの獣を見ては無かった
いや、もう……深く知らない方がいいのだろうな
なんとなくそんな気がする
「 はぁーぁ、腹減ったままの授業かよ。萎えるぜ 」
飲み物でも大量に買って、
それで腹の足しに使用って決めれば食堂へと戻る
午後からの授業は興味がなくて、
何気無く聞く程度で殆ど寝てた気がする
寝るから学力が無いと言われても仕方無いぐらい
勉強って眠くなるから嫌なんだよな
動くような、能力や体力面の方なら全然いいのに、
頭を使うのはどうも苦手だ
というより、嫌いだとハッキリ言おう
「 これより私立 聖獣地学園。第143回。シングル戦を始める。参加した者達は正々堂々と戦うことだ 」
「「 はっ!! 」」
そっか、この学園は古いようで新しいのか
150年ぐらいの歴史しか無いから、俺が学園を知らなかったんだ
無理ないなーと頷きながら新顔やら、前回のトップ10に入ってた数名を見る
んー卒業してる生徒もいるから、
今回も新しい生徒と遊んでやるかって思う
「 それでは第一試合を始める。左、高等部1年 卯田貫 春! 右、高等部1年 リーファ・ガネット!!両者、前へ!! 」
リーファ・ガネット?
んー、悪いけど聞いたことないや
対戦相手の名前は聞いてたけど、
誰か分からないなって思いながら、ゆっくりと歩き競技場の中央付近へと行く
真ん中に立つ、審判をするノア先生の顔を見てから
目の前にやって来たメスの狐を見る
ほぅ、毛並みや目が緑色の子なんだな
全てが緑色であり、森を引きずって来たような神秘的な雰囲気がある
結構、大人しそうで可愛い子だと思う
「 それでは、両者。始め!! 」
軽く挨拶をした瞬間に後ろへと下がったノア先生によって、先に動いたのは彼女だった
「 締め殺せ、森蛇!! 」
「 やっぱり、草属性か。……化蛇 」
手を動かした彼女の足元から蔓が伸び、それが大きな大蛇の姿へとなれば
俺は同じく幻術を重ねた能力を使い、全く同じ技である緑色の大蛇を現せ、2体は大きくぶつかり合い巻き付く
「 なんで、私の……能力を!? 」
「 それが俺の能力。ほら、余興だ。遊ぼうぜ? 」
「 っ、森狼!! 」
「 化狼 」
自分が長年練習した技を、全く同じくコピーされたらどう思うだろうか
俺ならきっと精神的に壊れるだろうな
彼女は幾度と無く能力を使って、植物を創作しそれ等を戦わせる為に向かわせてくるが
俺もまた同じであり違うものを向けるから、彼女の草はぶつかった瞬間に消えてしまう
「 そんな、はぁ……はぁ……。っ! 」
「 全て、幻炎で燃えるといい…… 」
彼女が能力を発動したのに合わせて、左足の爪先を動かせば
地面に炎が上がり、彼女へと向かって行く
「 ひっ!! 」
「 そこまでだ 」
ノア先生が現れた事で、俺は火を消し口角を上げた
目の前に迫る火が消えた事で彼女は膝を付き、身体を崩した
今回は草と火じゃ相性が悪かったんだ
「 勝者、卯田貫 春 」
「 どう言うことだよ!? 」
「 えっ? 」
「 なんで女が座り込んでるんだ? 」
「 もう試合は終わったのか!? 」
辺りの声に驚く彼女に、俺は聞く耳を持つこと無く背を向けその場を立ち去った
今日は他にも3組ほどバトルをするが、果たしてどんな奴等が残るだろうか
彼女しか見えてない技、
それが俺が最も得意とする" 幻術 "だった
戦いの合図が始まった瞬間に、幻術へとかけて
攻撃をしてる、当たってる、または攻撃が当たらない等といった精神的なダメージを与えてから
その場で立ちすくしたり座り込んだ事で、
よく能力を知ってる、ノア先生は戦闘を止めさせる
それ以上すれば、生徒の精神が壊れていくからな……
「( アラン……俺は御前が思ってる以上に卑劣なやり方をするだろう )」
本物の炎を見せるのは、ダブル戦でいい
シングル戦なんて幻術で倒していけるから、
俺は毎回、滅多な事じゃない限り炎は使わなかった
帰り際にチラッと見えたアランの表情は、
どこかの驚いてる様子だった
さて、男子寮にもどって晩御飯をたらふく食って、風呂に入ろう
「 んー……最高だった 」
晩御飯を終え、わしゃわしゃと髪を拭きながら、
部屋にあるシャワールームから出れば
机の椅子に座ってるアランに声をかける
「 風呂はいれよ 」
「 ……うん 」
やっぱり、いつものテンションにはなれないよな
あんなに喧嘩というか、言った後じゃ…
こんなにも面倒な奴だっけ?と考えて
動かない様子に呆れれば、椅子に近付き足を動かす
「 っ!? 」
「 御前、ウザいな 」
「 なっ、んで…… 」
椅子を蹴り手元の肘掛けへと脚を置き、片手を伸ばし胸ぐらを掴めば自らの方へと引き寄せる
青い瞳が大きく見開く様子を見下げれば、
言葉を続けた
「 いいか、俺は番を持つ気がない獣なんだ。それに性格だって悪い。御前が期待するような奴じゃない 」
さぁ、どうする……泣くか?
「 っ…… 」
ぐっと堪えてるようだが、既に泣きそうなアランの目元と鼻先は赤くなった
それでも目線を僅かに外した後に、此方へと睨むように見上げた
「 俺がオオカミだから?オスだから、嫌なの? 」
「 ちげぇよ 」
「 えっ……? 」
そんなに驚く事なんだろうか?
睨んでたのが嘘のようにキョトンとすれば、
俺は肘掛けから脚を退け、少し息を吐いてから姿を白いタヌキの本来の姿へと変えた
「 ほら、御前もオオカミに戻っておすわりしろ 」
「 あ、うん…… 」
目の前に座り直して、オオカミの姿へとなった彼に俺は自分の手元を見ながら答える
「 いいか……御前はオオカミだろうと、こんなちっさい俺が好きなんだろう? 」
「 うん…… 」
「 だからもう、俺は姿の差なんて気にしちゃいない。だけどな……御前の寿命と俺の寿命の差があるのが嫌なんだ 」
「 ……差? 」
隠し通すつもりだった
化け狸であることも全てゲロって言ってしまえば
コイツがどんな顔をするのか……なんて考えてる時点で、俺はコイツを気に入ってるのだろうな
ほんの最近会った程度の、図体だけはデカい黄金色のオオカミに……
「 俺は普通の狸じゃない。化け狸なんだ……ずっと生きている。500年以上……ずっと……だから。嫌だろ!長く生きてると化け狸とか、害獣とか呼ばれるんだ……。俺は、番を失いたくない…… 」
もう、訳わかんねぇな
真面目にハッキリ言おうとしたのに、グシャグシャになった
これじゃ、子供みたいに只を捏ねてるように見える
「 それが原因だったの? 」
先に死なれるのが嫌だ
年上過ぎると言われるのが嫌だ
そう思っていたからこそ、それだけ?とばかりに告げる獣を見上げた
「 そうだ、それだけなんだ……御前が死ぬのを、見たくない……。番じゃ無ければ、大丈夫だと思って…… 」
「 そっか、ふふっ……それだけなんだね 」
「 っ、なんだよ 」
怒ることも無く、只僅かに笑って顔を下げて鼻先を首へと当ててきた事に驚いて
数歩後ろへと下がれば、彼は告げた
「 俺も……秘密にしてた事を言うよ 」
「 なんだ? 」
「 俺の一族はオオカミであり、オオカミじゃないんだよ 」
「 オオカミじゃない? 」
どこからどう見てもオオカミにしか見えないことに、疑問に思って首を傾げれば
彼は頷いた
「 母親はフェンリル属なんだ。俺はよくその血筋を引いてるからオオカミの毛色に無い。黄金色をしてる……。きっと母親のように、長生きすると言われてたから……寧ろ、ハルくんが長生きの方が嬉しいよ? 」
「 フェンリル……って……は!?えっ、そうなのか? 」
「 うん、長生き同士。仲良くしようよ 」
フェンリルって狼の姿をした巨大な怪物じゃないか
神話に出てきそうなやつなのに、
いや…俺も人間からしたら妖怪とか呼ばれてるから同じ様なものか
「 本当に、長生きしてくれるか? 」
「 うん、俺ね。お腹の中に50年はいたらしいの。多分きっと、ピタリと成長が止まるかな 」
狼の姿をしてるが、年齢と共に大きくなっていくのか……
そう言えば、こいつの母親は他のやつよりも強いってのは雰囲気で分かった
獣の匂いがするのに完全な人の姿をしてたから……
「 なら……俺は、直ぐに寂しくなることは無いんだな…… 」
「 無いよ。100年も200年もずっと、ずっと一緒にいようよ。ハルくん……俺を番にして 」
「 拒否する…… 」
いつものように告げた言葉、けれど彼の揺れる尻尾を見てから諦めた
「 ……なんて、言えなくなったじゃないか 」
「 ふふっ、そうでしょ 」
僅かに近付き、その毛並みへと顔を寄せれば彼は身体へと鼻先を当てた
冷たい水のような身体なのに、心地いいと思ってしまう……
俺は期待したんだ……
コイツとならきっと望んだ未来が待ってるんじゃないかって
「 ……ところで、どうやって番になるんだ? 」
「 勿論、ヒート(交尾)状態になってちょっとうなじを噛むだけだよ。ほら、俺がやってあげる 」
「 っ!?なっ、マウンティングするな!! 」
身体へと前肢を掛けてきた事に驚いて、
人の姿へと戻れば、口角を上げた彼もまた人へと姿を変えた
互いに獣の耳と尻尾が残る中で、俺は何故か
コイツに押し倒されていた
「 えっ…… 」
「 ちょっと"重り"を持ってるから、俺が攻めるよ。大丈夫!俺ってオオカミだし 」
「 全く、大丈夫って思わねぇよ!! 」
あり得ない!!俺が、受けなんて認めない!!と文句を言っても
コイツの押さえ付ける手が無駄に強かった
諦められないのに、触れる程度の口付けをされれば
仕方無くその髪に触れ首へと腕を回した
500年以上生きてきて
俺は初めて背中を許した……
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