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~ オオカミくん 視点 ~ 「 やっと、来れた! 」 目の前に建つ赤土の煉瓦で出来た屋根に 真っ白な教会のような建物 " 私立 聖獣地(せいじゅうじ)学園 " 広大な土地を持ち、この中には川、森、山を始めとした自然に見立てた施設があり 様々な種族との交流や共存をし "特殊能力者"ばかりが集まると言われる場所 人の姿を得る事の出来る獣ならば、 通いたいとされるエスカレーター式の学園である 人間達に隠れてひっそり、獣のように暮らしたり、 知識がなく、奴隷や重労働をする者になったりするのではなく 此処で学び、人間と共存できる証明書である"資格"が手に入れば 例え、森林の弱肉強食の世界の頂点に立つ シンリンオオカミだろうとも、人間の世界で働ける 俺はその為に高学年の部門から飛び級のように、 能力テスト、学力テスト等を受けて合格して この春から高校1年生として通うことが出来るようになったんだ とても沢山勉強して、 大変だったけどあの獣に会いたいために……! 「 よし、入学式を終えたら探そう 」 まだ小さくて、歩き始めて間もない頃に 川で溺れていた俺を助けてくれた…… あの綺麗な獣に会うために……! ~ タヌキ 視点 ~ 「 はぁ!?嫁探しに人間の住んでる場所に行け?クソジジィ、ふざけんな! 」 「 (おさ)に向かって、なんて口の聞き方なんだ! 」 「 いいさ、コイツの事は許してある 」 今から、何年前か忘れたが……… タヌキ村の長である、じじぃは嫁探しに行けと言い始めた 俺はタヌキでありながら、彼等のごく普通のタヌキとは違って、無駄に長生きしてる"化けタヌキ"って言う分類になる その為に、定期的に住んでる村を移動したりするんだが…… 此所はいつもの場所より長く居座れた気がする 容姿は真っ白、年齢も老けず、 見た目さえ忘れたぐらい昔から変わってない それなのに、このじじぃは気にもせずに"孫"として置いていくれた 中には嫌そうな連中もいるが それ等ともそこそこ仲良くはなっていた だから、恩はあるさ、 でもな、長生きてる俺にはパートナーは必要なかった 「 (はる)よ。御前は力もある、賢い。それに美しい毛並みを持っておるんじゃ。そろそろ身を固めて、ワシを安心させてはくれぬか? 」 「 身を固めろって……。じじぃも知ってるだろ。俺は化けタヌキだ。人や獣を騙し、何百年も生きていきた。そんな獣かも分からねぇような……俺が番を持てるわけないだろ? 」 タヌキである前に、化けタヌキだと言うことを気にしていた 俺の言葉に其々、顔を背けた様子を見れば分かるのだろうな 此処にいても、俺の番になりたいと言うタヌキは居なかった 今更、人里に出て 人に紛れるタヌキを探せって言うのは無茶苦茶だろう 「 なんとか言えよ、じじぃ。俺を此処から追い出したいだけだろ? 」 「 馬鹿言え! 」 「 !? 」 急に声を上げた事に驚いて 身を竦めれば、じじぃは震えた身体を立たせて前足を上げた 「 御前だけが冬でも獲物を取れて、あったかい火だって起こせる。そんな役に立つ者を人里へと行かすのじゃ!どれだけ心を痛めて考えた結果だと思っておる! 」 役に立つ者……確かに、他の連中は只のタヌキであり " 特殊能力 "は持たないからな…… 特殊能力……人間になれる者はそこそこ存在するが、それ以外に自然の力やら、物体を浮かせたり、動かせる、言わば人間達が"超能力"と呼ぶものが使える連中の事である この中でも、自然の力である火、風、水、地、の四種類を持つ者は極めて希だ 俺はその中で"火"を自在に操ることの出来る化けタヌキ 誰に教わったかも覚えてない程にいつの間にか使えて、そして時間をかけて自分の物として習得した 「 よいか、春。日本から離れた国に、御前さんのような獣が集まる学舎がある。其所に行き……そして番を見つけるのじゃ。そうすれば御前さんが望んでいた" 家族 "が手にはいるじゃろう 」 「 家族…… 」 両親も覚えてない俺にとって、家族と言う存在は夢であり理想だった 毎年、春になると番が子供を作る様子を見て羨ましいと思っていた 子供の世話を手伝ってるうちに、 俺も欲しいと思ったことはあるが…… 「 本当に、其所に行けば……俺の理想は手にはいるのか? 」 「 入るとも、此処に飛行機のチケットがあるからの 」 「 なんでド田舎のタヌキじじぃが航空チケット持ってやがる 」 「 新幹線のチケットは入手できなかったから、頑張って歩いてくれよの 」 「 滅茶苦茶だな 」 此処から新幹線がある駅を探すより、 飛行機のある空港まで行った方が速い気がするぞ つーか、どうやって手にいれたんだ 受け取った片道チケットに視線を向け、旅行券っぽい事に眉を寄せるが仕方無く 息を吐き、人の姿を得ればズボンのポケットへと突っ込んだ 「 うむ、出発は速い方が良い。気を付けての 」 「 嗚呼、分かった。無茶苦茶綺麗で、デカパイのナイスバディーなメスタヌキを見付けてくるから覚悟しろよ 」 「 それは楽しみよの。では、行ってこい 」 「「 行ってらっしゃい!春!! 」」 もう少し別れを惜しんでくれてもいいのに…… にこやかに尾を揺らしたタヌキ達を見てから 頭の中で移動手段の速そうな獣を創造する 足元から火を上げて、姿は巨大な火の鳥へと変われば翼を広げ空へと飛び上がる 「 あれが化けタヌキの能力……化ける力か 」 「 相変わらず、上手い変幻よの 」 歩くよりずっと速いだろう 雲の上へと上がり翼を動かして空港を探した 「 ……この国に来るまでに……このチケットいらねぇじゃないか!! 」 空港に辿り着けば、このチケットは期限が切れて使用できないと言われ じゃ、このチケットの先にある国は何処だ?と聞いたから、あの飛行機で行けます、と言われた 無一文の俺が乗れるわけもなく、飛行機を追い掛けるように飛ぶしか無かった 滅茶苦茶長い距離を飛んだ…… こんなのは世界大戦から逃れるときに逃げまくってた時以来だ そう言えば、その時に逃げまくったから故郷の場所さえ忘れたんだよな…… 「 まぁいい……取り敢えず行くか 」 じじぃの言ってた、学園の名前を野良猫やら、飛んでる鳥に聞きまくっていく 大半のものは首を振ったりするが、俺も首を傾げる 「 マイネーミーズ……ハル 」 「 HAL? 」 「 そそ、ハル。はここに、いき……って通じるかぁ!! 」 「 !? 」 なんだよ!!英語なんて分かる分けねぇだろ! 化けタヌキだろうが、日本から動いた事が、多分ないから分かるわけない!! 話し掛けても首を振るのもそうだろうな、 通じてねぇんだから!! つーか、嫁探しなのに…… 日本固有種であるタヌキ(のメス)が海外にいるのが可笑しいんだ! 「 絶対に騙された……。つーか、彼奴等……ちょっと馬鹿だから、外国にタヌキがいないことを知らないんだ…… 」 そう、俺は……日本固有種だった…… 寧ろ、日本に戻って九尾のババァとかと化け合いして、遊んでた方がいいんじゃないか それとか、カッパとかツチノコみたいな連中と仲良く遊んでた方がいいに違いない 「 道もわかんねぇし……能力使いすぎて腹へったし……そろそろなんか食わねぇとな 」 日本の都会のように空気は汚れている 車も多く、白い模様のついたカラスとか、見たことない獣ばかり…… 何を食って良いのかも分からず、裏路地を歩いて目についたのはゴミ袋だった 「 チッ……昔には戻りたくないが、仕方無い…… 」 ゴミを漁るぐらいしか食うものが見当たらず 仕方無く人目を気にして探ることにした 「 なんだこの飯、旨いじゃねぇか……! 」 肉厚の生肉、骨、パンの固まり、どれもこれも田舎じゃ食えないようなばかりで 聞き込みをしながら、残飯を漁るのが習慣になっていた 「 この害獣!! 」 「( チッ、人間相手は面倒だ )」 此所に来てから少し丸くなった感覚はある それでも、学園と呼ばれる場所を探すのに苦戦してるから動くに動けないでいた 「 あの害獣、また人間に追われてるぜ 」 「 媚売って貰えばいいのに 」 「( うるせぇ…… )」 此所にいてどれだけ時間が経過したか分からないが 獣達の言葉がそれなりに分かるようになってきた それでもまだ正確じゃ無いために、嫌味を言われてる程度だと認識して走って逃げる 「 はぁ……山に戻りてぇ…… 」 静かな山がいい カニがいて、キノコがあって、川魚も豊富だった いつも皆で探して食ってたのが懐かしいと思いながら、裏路地の隅に座り空を眺めた 「 しゃーない。嫌いな人間に化けて過ごすのは嫌だが、この国に慣れるには……人間から言葉を聞く方が早いからな……働くか 」 金が無いのは嫌な為に、働いて稼ごうと思い 人に化けることにした 最初はレストランの厨房だった 包丁は刀と同じかと思ったが全くの別物 繊細な動きが必要だし、下手に扱えば刃は砕ける 「 スミマセン…… 」 「 これで何度目だ!火は上がって火事の一歩手前。まな板は割って、包丁は粉々。肉だって無くなる! 」 「 それは、お腹空いたので……つい…… 」 「 店の材料につまみ食いするやつがいるか!!クビだクビ!! 」 タヌキの性質上、腹が減ると我慢が出来ないから仕方無いだろう レストランはクビ、次の厨房も匂いでお腹が空いてつまみ食いがバレてクビ 掃除員は、綺麗な毛並みが汚れるのを気にしてたらクビ…… 「 この半年で何ヵ所クビになっただろうか……。もう、帰りてぇ…… 」 地下鉄のホームの端で寝るのが癖になりつつあり 何度も帰りたいとぼやいては、帰ったところであの里は俺の居場所じゃない あんなことを言ってたが、俺は余所者に違いなかった 「 早く学園が見つかればな…… 」 学園を探し初めて3年ぐらいで聞き取れて、 喋れるぐらいにはこの国を知った ホームレスをしながら、バイトをして、料理もそこそこ覚えて、我慢することも学べば 人間との会話も上手くこなせる 住めば都と言うように、悪くない場所だと知った頃 ウェイターの仕事をしてたらとある人…… いや、獣に出会った 「 いらっしゃいませ……! 」 「 おや? 」 その人は、俺と同じく人間の世界に紛れて暮らす獣だった 「 君、変化が上手いな。聖獣地学園の生徒だったことある? 」 仕事終わりにもう一度声をかけられ、 彼は目の前で黒猫へと姿を変えた 左右の瞳が其々違い、二本の尻尾を持つオスは ノア・ブラックというらしい 「 いや、ないが……その学園を知ってるのか? 」 「 知ってるもなにも。其処の教師さ 」 「 せんせーなのか!?その場所を探していた 」 「 ほぅ、それは奇遇だな。入学手続きをしてやろう。 ハル……君を聖獣地学園の生徒として歓迎するよ 」 ノア先生との出会いで、俺は3年間探していた学園に行くことが出来た 能力テストはその年の入学生の中で一番の首席だったらしいが、学力は最下位だった じじぃが言ってたより、ずっと……面白くない場所だった 「 害獣野郎が。汚れたじゃねぇか 」 「 御前が先にぶつかってきたんだろうが 」 「 あ?やんのか! 」 売られた喧嘩を買っていたら" 害獣 "と呼ばれるようになった 学力テストが合格できず、中々中等部から上がれないまま、喧嘩に明け暮れる日が続く 「 火傷で済めばいいけどな? 」 「 ひぃ!!自然体質の特殊能力者だと!?くそ、一旦引くぞ!! 」 「 そんなやつが、中等部なんてありえねぇよ!! 」 「 逃げ足は速いな…… 」 この学園に来て驚いたことがある 一つは、完全とは言えないが、思った以上に人間になれるやつが多い 二つ目は、能力を持つ者が大半いるってこと 三つ目は、俺が思った以上に最強だってこと 「 地を使う、トータル先輩だ!!害獣を倒してしまえ!! 」 「 いけー!! 」 年に一度行われる闘技大会 そこでトーナメント方式で当たったものが対戦するが、俺は中等部のままで無敗を誇っていた 「 中等部のガキが、潰してやるわ!! 」 「 なら……流星群で潰されるといい。知ってるか、流星群っていうのは……火の塊なんだぜ 」 「 なっ!!? 」 岩を落とそうとした、その能力を使い 片手を上げ、その岩へと火を纏わせれば向きを変えさせ降り落とす 「 そこまで!! 」 審判をしていたノアが止めれば、能力を止め 火を消せば彼を見た後に背中を向ける 「 今年もあの中等部が勝ったのか…… 」 「 風は火をでかくするし、雷は火を起こす、地は燃える火山となり、水や氷は沸騰したり蒸発して消える……なら誰が勝てるんだよ!? 」 「 火に勝てるやついる……? 」 歩けば地は焼かれ、俺がいるところで戦争になり、助けようとした村は焼かれ、森が火の海になったことすらある こうして使えるのも……静かに練習してただけ いつか、俺の火を気にせずに手を向けるものはいるのだろうか…… 「 ハル!少し待て、話がある 」 「 ん? 」
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