07

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~ オオカミくん 視点 ~ フェロモン剤を持ってて良かった やっぱり、飲まなくなってから 彼が襲ってくる事は無かった それがちょっと寂しいけど 沢山ヤってからは、触れても毛繕いしても 怒らなくなったから それはそれで嬉しい 俺が番になれる日も近いんじゃないかなって希望があるぐらい 彼は明らかに優しくなった 「 アラン、朝飯を持ってきた。御前……最近寝坊助だな? 」 「 んぅ、ん…… 」 なんとなく最近、気だるい日が続く 朝が弱いわけじゃないのに貧血気味だし、 身体は熱いなら冷まそうと本能的に能力を使ってるせいかもしれない そんなの、ダブルバトルの日にハルくんに迷惑掛かってしまうのは嫌だな 「 ご飯……はっ、持ってくれたの!? 」 「 いつものことだろ 」 「 っ~!なんか嬉しい! 」 「 はいはい 」 やっぱりハルくんは優しい! 普通なら後から食いに行け、とでも言いそうなのに 持ってきてくれるなんて 嬉しくてベットから起き上がり、階段を下りて彼の元に行けば、ふっと俺を軽く見上げてる様子に傾げる 「 なに? 」 「 御前……少し痩せたか? 」 「 へ?えー、痩せてないよ?どちらかと言えば間食多くて太ってそうだけど…… 」 「 気のせいか、少し窶れてみえる 」 何気無く自分の頬に触れてみても分かるわけ無いが 毎日見てるハルくんからすれば窶れてるようにみえるのかな 睡眠不足かな?でも、交尾をずっと求められた時より体力はあるはずなのにな 机に座って、玉子料理を口へと運んでいれば ハルくんは告げた 「 そう言えば、今日から……俺の方はシングル戦が始まるから帰るのが遅くなる。いつも学校終わりだからな 」 「 えっ、見に行きたい!応援に行ってもいい? 」 「 しょうもないぞ。トーナメント上位の方が見応え有ると思うんだが…… 」 「 んん!初日だからいいんだよ! 」 シングルのトーナメント初日は、ハルくんと相手の人だった それを思い出したから楽しみで仕方無い ハルくんがシングルにも出場してるのもあり、ダブルバトルの日はずらしてくれてるんだよね 何気無く先生達のありがちさを感じつつ、朝御飯を食べ終わって、朝風呂には入って校舎へと行く 「 じゃ、俺はこっちだから……昼休みまで、バイバイ 」 「 ふっ、嗚呼……また昼休みな 」 「( なにこの恋人みたいな挨拶!!んー、ハルくん好き!! )」 一人で食えなんて言われそうなのに、許可してくれるなんて! ルンルン気分で、昼休みが楽しみになり教室へと行く いつもの席へと座れば、ふっと取り巻きのメス達が他のオスの元にいるのに疑問になる 「 メスって連れないよなぁ~ 」 「 どうしたの? 」 「 番が出来れば、他のオスに興味ねぇからさ 」 前の席に座ってる、ブチハイエナの少年はつまらなそうに告げるも 俺からすれば、番だけど仲良くしてるならいいと思うんだけど…… 「 良くない?番が出来るのは、この学園じゃあるあるだよね? 」 「 でもよ、番になったてってことは。メスが出産するんだぜ?幼児用の施設は校舎内にあるけど、クラス対抗戦とか、絶対に役に立たなくなる 」 「 オスが頑張ればいいよ。その為の俺達でしょ? 」 「 王子はポジティブだなー 」 妊娠中は確かに動きが鈍ったりするって言うけど、それも獣なら妊娠期間は2ヶ月ぐらい、早い種類も、遅い種類もいるけれど、 人間みたいに10ヵ月間 腹にいれる訳じゃないからね 獣は子育てもスピーディーと思いながら、ブチハイエナくんとそれとなく会話して、話していたら 担当のニック先生はやって来た 「 今日からシングル戦のトーナメントが始まり。明日はダブル試合になります。観客になるものが多いでしょうが、くれぐれも迷惑をかけないように。もし、邪魔をした生徒は学園を出て貰います……これは、学園の歴史なのです 」 茶化しや応援は許されるけど、能力で邪魔したり、物を投げる行為は禁止されてる 他にも、選手に対することについて注意点を言われた 負けた選手には敬意を持って、お疲れさま!の挨拶を、そして勝った選手には応援を…… どちらも同じ学園の生徒だということを忘れずに、言動に慎めって事に其々に頷いた 「( 体が熱い…… )」 授業を聞いてても、ぼけーとする感覚に 流石にちょっと可笑しいかなって思って手を上げた 「 ヴォルフくん、どうしました? 」 「 ちょっと怠いので、保健室に行ってきてもいいですか? 」 「 いいですよ、お気をつけて 」 「 はい 」 男子寮の部屋には体温計とか無いし、取り敢えず春になって、風邪でも引いたのかなって思って 保健室に行く 此処には人間の世界で働いた事のある、獣医と医者いるために 保健室というより、ちょっとした診療所でもあった 校舎の中央辺りに有るために、其々の階から行けやすい 「 失礼します 」 「 どうぞ 」 女性の声がした事に安心してから、保健室へと入れば 見掛けた人物に驚いた そして、彼もまた俺を見て少しキョトンとしていた 「 あ、れ……ハルくん……なんで? 」 「 御前も怪我か? 」 「 あ、いや……俺は違うけど…… 」 上着を脱いでいたハルくんは、椅子から立ち上がれば 薄いタンクトップから見える身体には、包帯が巻かれていた これまた、派手に怪我したんだと分かるから心配になる 「 どうしたの、その傷? 」 「 能力の実技授業の最中なんだ。馬鹿みたいにノアが受けろとか言うからクラス全員の受けたら、この様だ 」 ノア先生だ…… ハルくんが強いからって無茶な事でも言ったんだろうね 「 あ、もう……大丈夫なの? 」 「 その先生に傷口を塞いで貰ったから平気さ。授業の続きを行ってくる、じゃな 」 「 あ、うん……気をつけて 」 ふっと笑って立ち去った彼に、風のように去っていくんだなってぽかーと見ていれば 柔らかい笑みを浮かべた、ホワイトスワン(白鳥)の先生へと視線を向ける 「 珍しいものを見れたわ 」 「 珍しい? 」 「 そう、春がちゃんと生徒と挨拶をしてるのをみたからね。中々あんな風に笑わないのよ……さっきまで、借りてきた猫みたいに不機嫌だったのが嘘のよう 」 「 えっ、そうなんですか? 」 それってつまり……ちょっとは俺の好意を受け入れてくれるって事じゃない!? ハルくんがニコニコ笑ってるのはいつものことじゃないんだ!って思えば嬉しくて、体調の事なんてどうでもよくなりそうだった 「 それで、君はどうしたの? 」 「 あ、ちょっと熱っぽくて……熱を計らせてもらってもいいですか? 」 「 えぇ、どうぞ。名簿に名前を記入してね 」 「 はい 」 優しそうな先生に安心して、脇に体温計を差し込みながら、椅子に座り名簿に名前とどんな症状なのか簡単に書く 俺の上には" 1年火組。卯田貫 春 。ケガ "と書かれていてちょっと笑ってしまった ハルくんって漢字なんだって言う事を知りながら 書き終えた頃に、音は鳴る 「 42.3度……完全に熱があった…… 」 「 おや、君はオオカミなのに普段は低いの? 」 「 あ、はい。俺……水(氷)使いなので、平均37.5度ぐらいなんですよ……高いなって 」 それでも普段より大幅に熱くても、そこまで気にならないのはハルくんの熱に触れてたからだろうね 水が温められてるような感覚だった事に、気付けばどっと疲れが出る気がする 「 それは低いのに、これは高いわね。なにか原因は分かるかしら? 」 検査をするように、カルテを取り出して前に座った先生に、心当たりは有りすぎて言えないような事に 目線は泳ぐ 耳は下がり、僅かに尻尾を椅子の下へと丸めれば、彼女は微笑んだ 「 私は獣医よ?沢山の事を経験してるから、相談に乗れると思うし、患者の事は症状以外は口には出さないわ 」 「 えっと……その、答えます…… 」 先生だし……うん、言ってもいいよね そう思ってから、恥ずかしいけど熱を下げなきゃ 水のコントロールすら上手く出来なくなるのは嫌だ 明日はハルくんが楽しみにしてたダブルバトルだから、尚更…足手纏いにはなりたくなくて…… 「 俺の好きな獣は……種族も違うけど、その獣に好意向けて欲しくて……フェロモン剤を使って、交尾したんです……。効果あったみたいで、でも……それを使わなくなって、体調崩してて 」 「 そのフェロモン剤……病院から出されたの? 」 「 あ、いや……。直ぐに欲しかったから貰い物です…… 」 「 最近、違法な薬が出回っているのよ。それはちょっとこの学園でも使った生徒が体調崩す報告を聞いてるの 」 「 えっ? 」 フェロモン剤が、違法な薬? だって、あれは…… " 発情したい?んじゃ、やるよ。俺もこれで彼女とメロメロなんだぜ! " なんて言われて、少し分けて貰ったもの…… 飲んだ日から効果はあって、夜も、昼間も交尾してくれた それが嬉しくて続けてたのに、それが悪い薬だと聞いて不安になる 「 それも厄介なのが……フェロモン剤と言いながら妊娠薬なのよね……。女性ホルモンが活発になって、オスでも妊娠したって言う子もいるし……君はどっちに使ったの? 」 「 俺が使いました…… 」 「 食欲はある? 」 「 沢山食べてる気はします 」 「 眠い? 」 「 とても、かな……でも、熱いから…… 」 何個かの質問の内に、先生は少し困った様子を見せてから カルテに書くのを止めて、立ち上がり戸棚の引き出しを開けた その中にある、体温計みたいな物を取り出せば俺に差し出してきた 「 今から、この先端に尿をかけてきてくれる?それで原因が分かるかも、やり方はね 」 「 あ、はい…… 」 フェロモン剤が悪いものだった場合は、 俺は学園には居られないのかな そうしたらハルくんとは会えなくなるのは嫌だな…… 検査の結果はどうあれ、使わなきゃ原因が分からないから 保健室の近くにある、教員用のトイレを使わせてもらって やり方の説明通りに尿をかけて、検査を見た なんとなくこのまま持っていくのが嫌で、洗ってから持っていく 「 あの、何か……線が出て…… 」 「 見せて 」 2本の線は、横にある判断線と同じだったことに 変なウイルスでも貰ったのかなって不安になって、落ち込んでいれば、先生は見てから眉を下げたあとに軽く微笑んだ 「 やっぱり、貴方……妊娠してるわ 」 「 えっ……?妊娠してる……? 」 「 そう、今……お腹にはその好きな子の子がいるのよ。この薬はね、本当……胎内だけを変えるから外見の変化は殆ど見られないのよ……だからメスが、妊娠したくて使う子が多いの 」 この妊娠検査薬は陽性だったみたい…… ってことは、お腹の中には…… ハルくんの子供がいるってこと!? それって…… 何がなんでも番になりたいけど 先に子供がデキちゃったなんて!? 先生の言葉なんて聞いてなくて 、 自分の腹下を撫でながら尾は揺れる 「 俺に子供……想像妊娠じゃ無かったんだ 」 「 想像妊娠だと思ってたの? 」 「 多分、なりそうって感覚は…… 」 「 そう、でも……ちゃんと相手に言うのよ?子育ての費用とか……この学園の育児場に預けても……その費用はいるし。産むなら、2カ月後ぐらいだと思うわ 」 「 えっ、あ……そっか……赤ちゃん、育てるには……お金要りますもんね……ちょっと考えます 」 「 うん、しっかり話し合うことね 」 妊娠したママさんへ、と書かれたパンフレットを貰ってから 俺は教室に戻ることになった ポケットに折り畳んで突っ込んで、妊娠検査薬は先生に渡してるから無い でも、パンフレットはどこに隠そうかなって思う 「( 嬉しいのに嬉しくない……ハルくん……迷惑掛かる…… )」 嫌って言うか、番にもなってないのに子供なんて出来ました!なんて言えば 同室の部屋を追い出されて " オオカミとタヌキの子供なんてありえねぇ! "なんて怒鳴られるのが目に見えてる でも、間違いなく交尾したのはハルくんが初めてだし、あのフェロモン剤を飲んで交尾した記憶は残ってる…… 番になってないのに…… その事が一番気にかかって、教室に戻ってからもうつ伏せになったまま落ち込んでいた 昼御飯、会いに行かなきゃきっと気にするかなって思って 気だるいまま、待ち合わせの場所である 庭のベンチに行けば、ハルくんは無料だからって買いだめたパンを持ってご機嫌に頬張っていた 俺も気も知らずに……本当、好き!! 「 ん、アラン。遅かったな?パンあったか? 」 「 無かったよ……待たせてごめんね 」 「 別にいいけど、いつものことだろ?ほら、なに食いたい?玉子サンドに…… 」 「 これ、もらうね 」 「 おう! 」 俺が買うタイミングが遅くて、彼はよく俺の分まで多めに買ってくれる だからこそビニール袋いっぱいに入ったパンの中で、玉子サンドを受け取れば隣に座って口へと含む 甘くて美味しくて、無意識にお腹を撫でてしまう お腹の子の為に……栄養付けようって思うんだろうね 黙々と食べていれば、彼は問い掛けてきた 「 ……なんか静かだな 」 「 えっ、へ?そうかな? 」 「 嗚呼……最近、静かだ。保健室にもいたし、体調悪いのか? 」 妊娠して体温上がってるなんて言えるわけもなく、頬張っていた玉子サンドを飲み込んで 首を振る 「 んん、そんな事ないよ。そんな心配するなら、俺の番になってよ 」 「 拒否する。俺は番を持たねぇの 」 「 うん……そっか…… 」 あれ、いつもなら" そう言わず~! "なんて笑って誤魔化せるのに 何故か、胸に矢が刺さったように苦しくなった 手に持つ玉子サンドがボヤけてるような気がして、震える声で問い掛けた 「 なんで、そんな……番を持たないの? 」 「 うーん……長に言われ嫁探しにこの学園に来たけど、思った以上にいいメスがいなかった……後は…… 」 「 後は? 」 「 俺は……番を持つ資格なんて無いって気付いた 」 「 なんで……? 」 「 金無いし、他のやつよりずっと年上だし…… 」 なんでそんな事を言うんだろう お金がなくとも、獣にお金は必要ない 人間から見つからない場所で、 ひっそり子育てする獣の方が多いのに…… 学園で出会ったのは嬉しいけど…… ハルくんが番を持たない理由に、 お金がないとか、年上だとか俺には関係なかった 「 お金無くてもいいじゃん! 」 「 アラン? 」 声を張るように立ち上がっていて 彼を見下げて、泣きながら文句を言ってた 「 何が年上だよ。俺より小さいくせに!可愛いモフモフの白いタヌキのくせに! 」 「 ちいせぇ言うな…… 」 「 俺はハルくんが好きなのに!ハルくんは、なんで俺じゃだめなの!?こんなのにも、こんなにも……君だけが、好きなのに……! 」 「 …………! 」 嗚呼、俺は馬鹿だよ…… なんでオオカミなのに、年上のタヌキなんて惚れたんだろう 子供が出来ないかな、想像妊娠出来そうなんて1匹で舞い上がってたけど、 いざ出来たらこんなにも不安になるなんて思わなかった 「 このパンもらって行くから!! 」 「 あ、ちょっ…… 」 パンの入ったビニール袋を奪って、そのまま背を向けて走り出した 番にならずとも、身体の関係だけでいい! そう思っていたはずなのに、そんなの嫌だよ…… 「 うぁぁあ、あっ……ハルくんの、番に、なりたい……!! 」 タヌキの番になりたい そう叫んで泣くオオカミは居ただろうか…… 俺がいるけど、他の実例を知りたい…… なんで俺じゃダメなんだろう…… オオカミだから?オスだから? でも、君の子を妊娠できたんだよ…… 君が子宝に恵まれたいと笑って、 キスしてくれた事を覚えてる 優しく触れる手も…… 何もかも好きなのに…… 俺がデカいオオカミだから…… 「 ウォォォオオォォン!! 」 ダメなの?
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