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アパートの前で十数分待ち続け、思ったよりは早く戻ったマチに依頼の軽重を思って安心したが、マチが浮かべていた表情を見て、カケルは思っていた以上の状況であるのだと察した。「どうだった?」迎えてそう問いかけたカケルにマチは無言で更に数歩進んだ後、振り返らずに言った「神仏の気配がした」と。
大ケ谷三月の自宅の調査を終えた後、カケルとマチは自分たちの自宅方面に近いファミリーレストランで遅い夕食を兼ねた作戦会議を始めた。マチはここでもパフェを頼み、食前に届いたそれをつついて涼みながら話を進めた。
「家にはなにもなかった。呪いの類も残るものもなにも。なにより本人からそういうものの一切も確認出来なかった。なのにアパートの敷地の時点で気配が違って、一帯になにかの気配があった。家に入る前には既に神仏の気配があって、家の中はそれで充満していた。それで、なんで本人にはその気配がなかったのか。影響が出ているならなにかしら残っていてもおかしくもない」
真面目というよりは感情が色味を見せない表情で語り、次々とアイスもクリームも平らげていく。マチはデザートの類を、何故か食前に平らげる傾向がある。こと、パフェに限ってはアイスが溶けるのもクリームが温まるのも嫌う。冷たいまま、なにより塩味のある食事が来る前に食べきってしまいたいのだ。あまりの勢いに食事が来る前に凍えていることもあるのだが、暑さに弱いだけのマチに冷たさなど僅かにもダメージを与えない。
マチのその勢いも、長年の付き合いであるカケルにとってはいつものことで、まして依頼で頭を使った後であれば尚更で、「疲れたんだね」という程度で咎めることすらもない。
「気配がするだけで、部屋にはいなかったってことなんだね」
マチのパフェが残り器の三分の一まで来た頃には食事が運ばれ、カケルは大根おろしの乗った和風ハンバーグを、マチはパフェを平らげてからたらこパスタを食した。
「なにかに宿っている様子も、通ってる様子もなかった」
「じゃあ、帰ったらまず土地を調べないといけないね。その前に建物自体もかな、建設に問題がなかったかもだね」
「一通り終わったら依頼人の人間関係も」
「うん、大丈夫。でも、夢の内容から逆算していけないのは残念だね。そこからの方が調べやすそうなのに」
「降ってくるだけじゃ、事件にも繋がらねえしな」
「うん。でも」
「なんだよ」
「やっぱりマチ君が作った方が美味しいね、ハンバーグ」
繋がるカケルの言葉を変わらずの表情で待ったマチは暫しフォークを持つ手を止めた後「食えよ」と一言返し、カケルはその冷ややかな言葉にめげることもなく、素直に返事をして夕食を楽しんだ。
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