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※  祖母の家での三泊四日を楽しく過ごし、沢山のお土産も持ちきれない程受け取り帰路についた。今度は冬にも来よう、お正月に休みをとって、祖母の家で過ごそう。父とは久し振りに約束なんてものをした。お互い、絶対に仕事を休もうと。  車内も笑顔絶えることなく過ごし、私はそのまま自宅へ送ってもらい一人暮らしの家へと戻った。  荷物をとき、洗濯物もすぐに始めて、ひと息もつかずに片付けをするのは働き始めてからの習慣になっていた。一度でも座ってしまうともう手が付かないのを学んだからだ。明日にはいつもの日常がスムーズに進むよう、勢いのまま終わらせていった。  全てを終わらせてから風呂に入って、ベッドに入った頃には確かに暗かったけれど、いつの間に眠ってしまったのかわからない。けれど、深夜に一度だけ目が覚めた。眠っていたはずがなにか、眩暈のような感覚で目が覚めてしまったのだ。  眠っていたのだからそんなはずはない、きっと夢の一部だったのだと思う。とてもはっきりと、〝回った〟。自分の体の真ん中を軸に、反時計回りに回ったのすらわかった。  どんな夢を見ていたのかは思い出せない。夢なのだから、どうせそんなものだろう、そう、思った。  一度目の奇妙な夢はその感覚から二日経った頃だった。  先日祖母の家で見た夢と、とてもよく似ていた。けれどそこにいたのは祖母の家で見た人影とは違っていた。着ている服の色合いも、頭の位置も違う。こちらに背を向けた姿で、ずっと動かなかった。私はやはり手を伸ばしたのだけれど、人影はそれに気づくことなく、ずっとそのままでいた。  内容は違ったものの、感じたものは祖母の家と全く一緒だった。伸ばす腕に感じる冷ややかさにも、覚えがあった。  二度目の夢はそこから一日半後のことだった。  その日は休日で、昼過ぎまでベッドでゆっくりと過ごしていた。何度かうつらうつらと、眠りと目覚めを繰り返していた時、紡ぎ紡ぎでまたあの夢を見た。  二度目の夢は、またそれまでとは違っていた。そこに人影はいなかった。けれど、かわりに青空が見えていた。透明な靄がかかるように揺れる様子は陽炎の中から見上げているようで、なんだか少し、幻想的だった。  また、私は手を伸ばした。それでこの夢はどこかの〝底〟なのだと気が付いた。  何度か紡いで見ている内に青空に黒いものが落ちてきて、暫くしてそれが雀の死骸だと気が付いた瞬間にはっきりと夢から目覚めた。  ほんの一瞬のことだった。私は何故かその雀の死骸をよけることなく、眼前まではっきりと見つめ続けていた。  なんて不気味な夢だろう、折角の休暇にと、気分が落ちた。  三度目の夢は、更に不気味さが増していた。  三度目は二度目から三日後だった。その日の夢も同じなのはどこかの〝底〟にいる私が手を伸ばしたことだけだった。けれど、私が手を伸ばしたのは見知らぬ人で、そして、私はその人物を確かに掴んだ。そして振り返ったその人物が、どういう形なのか、こちらに〝降ってきた〟。  そこからは雀の死骸の夢と同じで、私はその人物が眼前に来ても目を閉じることもなかった。  徐々に近づくその表情は、次第にはっきりとした感情すら読み取れた。  恐怖に染まった人の顔が、避けられもせず、私の眼前まで〝降りて来た〟のだ。  この夢はおかしい。三度目でそう感じたはずが、私はそのまま過ごしてしまった。  四度目の夢は、三度目から二日後のことだった。  三度目の夢から、私はまたあの夢を見てしまうのではと眠るのを躊躇うようになっていた。少しばかり体調も思わしくなかった。夢を見る警戒とその緊張で上手く眠れない所為かもしれない、体が怠く、重い。疲れがとれていないどころか、それ以上な気もした。  もしかしたら、祖母の家に泊まったことも考えて旅疲れから風邪気味になっているのかもしれない。けれど怠い以外には特に症状もなく、それだけでは仕事を休んで病院に行くわけにもいかなかった。常備してある風邪薬を飲んで、その日は眠った。  そして、夢を見た。四度目の夢も私が手を伸ばすことと不気味な内容は変わらない。しかしやはり、出て来た人影はそれまで見たものとは違っていた。祖母の家で見た人影、一度目の夢、三度目の夢とも違った。  裸足の足が見えた。〝私が見上げると〟立ち姿の人影が確認出来た。骨格から男性なのだとわかったけれど、年齢層まではわからなかった。  私はこれまでの夢と同様にその人物に手を伸ばした。するとその人物はこちらを振り向き、三度目の夢と同じように、〝降ってきた〟。  そして私は目を閉じることもそれを避けることもなく、またも眼前まで見つめ続けた。恐怖に染まった人の顔と、ずっと。  まるで私自身と一体にでもなるかのような感覚だった。それ程近くまで来ても、夢の中の私は目も閉じず、避けることも声を上げることもなかった。  夢の所為だ、起きた時には酷い倦怠感で飛び起きるのもままならなかった。  悪夢ばかりを見て、心身共に疲れている。どうしてこんな夢ばかり、私はこれまで見た夢の内容でインターネットで検索をかけ続けた。  そうしてたどり着いたのが、真っ白なページに鮮明な灰色で一文だけ書かれた妙なページだった。  「灰色の問題でお困りですか?」その謳い文句にピッタリな装いだった。
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