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カケルの残る飲食店に戻り、マチはすぐに情報を共有した。話している最中に何故かツナとトマトのパニーニがテーブルに運ばれたが手を付けることなく、話しきった所で「これは?」とマチが問うとカケルは穏やかな笑みを浮かべ、「きっと頭使って疲れただろうなと思って」と、マチへの注文品であることを知らせた。
「悪夢はなにが見せてるんだろ。聞いた限りでは似てはいるけど意味がなさそう」
「見せてることには害はねえよ」
「ないの?」
丁度パニーニを口にしたマチが飲み下すまでカケルは次の言葉を待った。マチも焦ることなく食し、氷で殆ど薄まったアイスコーヒーで喉を潤してから言葉を繋げた。
「夢を見るのが問題じゃなくて、夢が進んでるのが問題だろ」
「……どういうこと?」
ほんの少し、考えようとした努力を見せかけた瞬間には諦めて、カケルは潔くマチの答えを求めた。その間、マチはメニュー表を手に取り、物色し始めていた。
「夢は一話完結で終わるだろ。昔から同じ夢を見るとかいうのもあるが、それも同じだから印象に残るんだろう。依頼人の夢は枠組みが同じで、本人にも同じという感覚がはっきりしているのに内容が進んでる。お前、同じ夢が連続ドラマみたいに続くのを見たことあるか?」
「見たことない。そっか、そこが問題なんだね」
「もう一つ問題がある」
カケルが「なに?」と聞くと同時にマチは手を上げて、店員が気づいて席に近づく前に一言呟いた。「依頼人からはなんの気配もしなかった」と。
長年マチの仕事を手伝って来たカケルにも問題であることが理解出来た。それは依頼人になにかがとり憑いて悪夢を見せているわけではないということだった。結果依頼人は悪夢として見ているが、それは外部からの干渉があって残ったものを依頼人が夢で見ていることになる。
つまりそれは夢ではなかった。恐らく、外部からなにかの現実の出来事が体に残されている。そして同時にそれは依頼人にとり憑ける程、害となっている対象が小さくはないということも表していた。
あまりよくない。カケルが表情を濁らせる反面、呼び寄せた店員に和風パフェを頼むマチの姿は少しばかり晴れやかだった。
季節を問わずに好物のアイスクリームを前に、平坦で抑揚のない声もその能面も、カケルにはわかる範囲で心躍っていた。
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