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アトリエを覗くと、彼が絵を眺めていた。
「何を描いているの?」
そう尋ねると
「何だと思う?」と返された。
いつもの会話だ。
彼は毎度、質問を質問で返す。
キャンバスに描いてあるのは魚。……だろうと思う。
コテコテの絵の具で描き殴っているようにしかみえない。
こんなことを口にすれば、彼は怒るだろうか?
それにしても、普段の作風とは違う絵だった。
心境の変化でもあったのだろうか……
「んー。じゃあ、サメかな?」
とりあえず回答。
私にはそう見えた。
「へえー」
彼はそう言うと、椅子に座って続きを描き始める。
「え?」
聞くだけ聞いて、この態度。
だけど、まぁ。
予想していた答えではあった。
彼はそういう男だから。
「答えなんてないさ」
彼は私の思考を読んだように言う。
「それは甘えじゃない?」
「僕はそうは思わない」
「……」
彼は口喧嘩をしない。
大抵のことは「分かる」か「そうは思わない」と答えるだけだ。
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