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青い惑星「ネモフィリウム」
天の川銀河の辺縁、太陽という恒星の周囲を公転していた第3惑星――それが私達の母星、「地球」。
私達の祖先は、長い時をかけて宇宙に船出した。たった38万km離れた衛星「月」への飛行を皮切りに、宙間飛行技術を高め、移住拠点を築きながら、遠くへ遠くへと渡り、およそ400年前に、私達の惑星「ネモフィリウム」に辿り着いた。
ネモフィリウムと地球は、青い星という点で共通している。青は、ヒトが認識出来る光の波長(可視光)380-750nmの内、450-495nmの波長だ。網膜で捕らえたこの波長が、脳内で「青」という色彩の1つに識別されるだけなのに、ネモフィリウムを発見した地球人達は、一様に歓喜し――落涙したのだという。無論、彼らは本物の地球を見たことはない。航宙船に搭載された映像記録のデータでしか知らない故郷。それなのに、私達の祖先は、この星の青さに安堵し、癒されたのだという。
『果てなき漆黒の底で煌めく一粒の奇跡のように、その青さは我々を驚嘆させた。恒星アグライアの光を受けて、青が目覚めていった。美しい光景であった』
『ネモフィリウム開拓史』に引用された、この航宙日誌の一部は、この星に住む誰もが知っている叙情詩だが、今では字面でしか理解されていない。
何故なら、現代に生きる我々は知らないのだ。『美しい』という表現が示す感覚を。この形容詞が、具体的にどのような属性を定義する単語なのかを。
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