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ツンデレにゃんこの甘い憂鬱 笹野ことり
【1】
森川颯真は、あきれた眼差しで10歳年上の恋人、佐久間宏伸を見ていた。
『今日は早く帰れそうだから、一緒に夕飯作ろ♡ ハンバーグが食べたい』と、メッセージが来たのが1時間前。
ちょうどスーパーへ買い出しに来ていた颯真は、そのメッセージを見てハンバーグの材料を買ってきた。そこまでは良かった――なのに。
「ただいまー。いま帰ったよー」
リビングのソファーに座っていた颯真は、体をひねり「おか…え、り」と告げながら、大事そうに紙袋を抱えあらわれた佐久間に首を傾げた。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。おなか空いたよね?」
怪訝そうな表情の颯真の態度が視界に入っていないとでもいうように、ネクタイのノットを緩めながらにこやかに会話を続ける。
「別にお腹はそんなに空いてないけど……」
「えー? まさかお菓子つまみ食いしてたんじゃないよね? せっかくかわいい顔に吹き出物出たら大変なんだから」
「俺、男なんだしさ吹き出物の1つや2つ」
「でもー、そうちゃんの可愛い顔にそんなもの出来たらヤダヤダヤダ!」
抱えていた紙袋を強く抱きしめながら腰をくねくねと動かすスーツ姿の佐久間はどこか滑稽で。普段は、部下を従えてバリバリと仕事をこなしているはずなのに、颯真の横にいる佐久間はとても子供っぽい。ここまでオンとオフの差が激しい人は珍しいだろう。
しかたないとでもいうように、息を一つ吐いて立ち上がる。
「ったく、早く着替えてきたら? 一緒にハンバーグ作るんでしょ」
「そうだった。急いで着替えてくるから待ってて」
リビングに置かず、説明もないまま紙袋を抱え寝室へ向かう姿を目で追う。いつもなら、よけいなことまで逐一報告してくれるのに、なにも言わないのが気になってしかたがない。
寝室へ消えて5分。
再び紙袋を抱えながら佐久間が戻ってきた。すると、今日はプレゼントがあるからソファーに座ってと言われて座る。
「プレゼント?」
「うん。帰り道にさ、そうちゃんのための洋服買ってきちゃった」
嬉しそうに紙袋から出された服は、猫耳カチューシャに、ニーハイ、フリルのついた白エプロンに、黒のミニスカワンピース。
目を丸くしながら、佐久間の顔と太ももに乗せられた服を交互に見る。
ありえない。
24歳男子が着て喜ぶものでもないし、コスプレの趣味……いや、女装の趣味もない。
「そうちゃん、これ着てよー。これ見たときビビッときたんだ」
「は?」
「絶対似合うと思う。黒髪で肌白いでしょ。だから、黒の猫耳にしたんだからさ。ほらぁ」
嬉々として猫耳カチューシャを手に取り颯真の頭につけようとする姿に、あからさまに不機嫌な顔をする。
――出会いから変な人だと思ってたけど。……ったく。
なんの拷問だと思いながら、キラキラした瞳を向けてくる恋人に軽蔑の目を向けながら舌打ちをした。
【2】
結局、食事中もお通夜のような暗い空気が漂う。
ハンバーグを口に運ぶときに、ちらっと佐久間をみやる。すると、眉を八の字に下げ今にも泣きそうな様子だった。
すると「ご、ごめん……」と、消え入りそうな小さな声が聞こえてきた。
「俺、かわいいと思ったんだ。そうちゃんって、いつもかわいいけど、こういうの着たらもっと可愛くなるって思ってさ」
「はぁ? 今じゃ満足してないわけ?」
「えっと、そういうんじゃなくて。もっともっと可愛くしたいっていうか。俺のものって思いたいっていうか……。そうちゃん、俺の好きなもの否定しないでいてくれてるから、こういうのも受け入れてくれるかなって。甘えちゃってた部分あったよね。ごめん」
今も、颯真の許しを待っているのかハンバーグを1口大に細かく切り刻んで口にしていない。
そういえば、年上でかっこいいのに少し変わり者の佐久間とのファーストコンタクトは、週5でバイトをしているドレミピザの配達だったと思い出す。
ある時、バイトの子が一人辞め、その子の仕事が颯真に降ってきた。配達区域が増えただけならまだしも、バイト先でちょっとした噂になっている男への配達がもれなくついてくることになった。それが佐久間だった。
1日おきにピザをとる。注文曜日と時間は、月・水・土のだいたい22時20分。
しかも、毎回マルゲリータピザMサイズ。
こんなに頻繁にデリバリーするなんて、よっぽどピザ好きなのかと思ったが、辞めた子の話を聞く限りそうではないらしい。
義務のようにきっちり1980円を無言で手渡す。
嬉しそうじゃない。
目を合わせない。
ぬぼーっとしている。
その子の話を聞く限りどれをとっても良いイメージではないし、こんなヤツと週に3回も顔を合わせないといけないなんて、ハッキリ言って面倒くさい。
佐久間のイメージが掴めないまま、該当の水曜日22時24分。注文の電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。ドレミピザです」
「あの、マルゲリータピザMサイズ1枚配達してもらえませんか?」
「では、お名前を……」
「佐久間です。えっと、電話番号ですが……」
「あ、大丈夫ですよ。いつもご注文ありがとうございます。今だと、15分くらいで配達できると思いますので」
「では、よろしくお願いいたします」
一通り注文の話をしたあと、電話を切った。
思ってたより凛々しい声だった。
ぬぼーっとしていると言われていたから、偏見かもしれないが勝手にモゴモゴ喋ってたどたどしい注文だと思っていた。ますます、どんな人なんだろうと興味が出た。
ピザのトッピングをして焼き上げた颯真は、地図を確認後バイクに乗り佐久間のマンションへと向かった。
目的地についた颯真は、ドアのチャイムを鳴らす。
すると、出てきたのは髪の毛がボサボサのスウェット姿の男だった。
――あ、ピザ三昧だけど太ってなかった。
想像より細い。いや、細マッチョというやつかもしれない。ダボってした服じゃあ判別つかないけれど。それに、無造作ヘアーから覗く瞳は、切れ長でよく見るとかっこいい。イケメンじゃないか、と佐久間を隅々まで観察をする。
小綺麗な身なりにすれば、彼女の一人や二人くらいいてもおかしくないのに、1日おきにピザ。もしかして何か欠点でもあるのだろうかと、考えていると目の前から怪訝そうな声が聞こえてきた。
「あのー、それもらえる?」
え? と、声を上げて、二度まばたきをする。
「だから、それ」
手元に持っていたピザを指さされ、慌てて保温バックから箱を取り出した。
「あ、すみません。これ、ご注文のマルゲリータです。えっと、値段は……」
「わかってるから。1980円でしょ。はい」
「えっと、ちょうどいただきます」
お金を受け取ってポーチにしまうと、ピザを受け取った佐久間は興味を無くしたように玄関のドアを締めた。
そのまま、ぼーっと立ち竦んでいた颯真は閉められたドアを見つめる。
「かっこよかったなぁ……」
ため息混じりにうっとりした口調で呟く。
自分は、目尻が上向きでアーモンド型の瞳。目はぱっちりと大きく、クリっとした二重。骨格が華奢で、小柄。それに対して佐久間は、颯真が持っていないものを全て持っているような気がした。
あんなにだらしない格好をしていたのに、醸し出す雰囲気は大人のイイ男風で。あの人に組み敷かられたら、トロトロに蕩けちゃうだろうな。もしかしたら、ああ見えてすごいエロいのかもしれない。精力が有り余ってたりして――。
だけど、あんな人が近くにいたら女が放っておかないだろうし、それにきっとノンケだろう。
一瞬、あわよくばと考えてしまった自分が恥ずかしい。
最近、ボーイズラブの要素が詰まったドラマや映画が頻繁に公開されるようになって、世間が少しは寛容になったとはいえ、出会う人すべてが颯真と同じゲイとは限らない。むしろ、いまだに少数派だ。
――けど、女っ気はなさそうだったな。
女が一緒に住んでいるのなら、頻繁にデリバリーしないだろう。それに、ピザ屋でバイトしている自分が言うことじゃないと思うが、こんな食生活をしていたらいつか体を壊してしまうかもしれない。
――まっ、俺には関係ないんだけど……
颯真は、踵を返しマンションのエレベータへと向かった。
あれから、1日おきに佐久間の部屋にマルゲリータピザを届けているが、一向に距離は縮まっていない。
こんなに頻繁に顔を合わせていれば、向こうから歩み寄って話しかけてくれるものだと思っていたが、違った。きっちり1980円を無言で渡され、ピザを受け取った途端にドアを閉められる。
所要時間、約30秒。
白のヘルメット被って、ピザ屋のジャンパー、保温バック。こんな出で立ちだと、興味なければどの配達員も同じに見える。ようするに、佐久間にとって颯真は興味すら湧かない対象ということになる。
いや、颯真にというより人自体に興味がないのかもしれない。毎回同じ人物が配達しているというのに、それさえもわかってないようなのだ。
眼中に入ってないんじゃ、お近づきにもなれない。
イケメンと近づくのは、夢のまた夢だと思いながら肩を落とした。
【3】
金曜日。バイトが休みで久々に街へ買い物に出かけた。
駅前から少し離れた通りを歩いていると、スーツを着たサラリーマン3人組が前から歩いてきた。すると、その真ん中に見知った顔を見つけた。
――あれって、もしかして。
ボサボサの頭で、精気を失った顔をしているところを一瞬(×週3)見ているだけだったが、見間違えるはずがない。好みの男は、一回見たら忘れないのだから。
でも、180度見た目が違う。
高そうな細身のスーツに、血色の良い顔、無造作ヘアーだった髪の毛は、ワックスで整えてさり気なく後ろに流している。眉毛が凛々しく、奥二重の瞳は少し茶色で。まじまじとみると、やはりいい男だった。
――あんな顔もできるんだ。
新たな一面を知り、嬉しくなる。佐久間の眼中には入ってはいないけれど、イケメン鑑賞をするくらいバチはあたらないだろう。そっと、自分の推しを崇拝するだけなら、誰にも迷惑はかけていない。
目で追っていると、部下らしい男たちと別れた佐久間が駅と逆方向へ歩いていく。どうしたのだろうか。佐久間の家の最寄り駅はここではない――ということは、金曜日だしデートだろうか。
それに、金曜日にはデリバリーピザの注文もない。
彼女を見てみたいけれど見てみたくないような……複雑な気持ちになるが、佐久間と付き合える女性はどういうタイプなのだろうかという興味が勝ってしまう。眼中に無い自分がその位置には行けるはずがないのだけれど。
それに、キレイで何も欠点のない女なら、淡い憧れをきっぱりと捨てられる。いつものピザ屋の店員と客という関係に割り切るためだからと、自分の行動を肯定化する。
佐久間の後ろを1mほど開けて歩く。あくまでも自然に、つけているのをバレない程度に。
すると、佐久間は慣れたようにビルの一階の店へ入っていく。
――あれ? 彼女と待ち合わせじゃないのか?
デート現場の追跡だと思いながら付いて歩いていたのに、と思いながら店の看板を見上げた。
――アニメディア?
ビルの入り口に立ち、なかの様子を伺う。どうやら本屋らしい。本屋なら入るのは躊躇する必要はないかと、足を一歩踏み出す。自動ドアが開くと、密集度がすごい。しかも、比較的に若い子で、特に学生。
キョロキョロとあたりを見渡すと1階にはアニメ雑誌や漫画が陳列してある。ビジネス書売り場ってどこだろうと思いながらエレベータ前に立ち階数表示とジャンルを書いてあるプレートを見る。
――ん? なんだこれ。
フィギュア・トレーディングカード、女性向け、男性向け、声優?
ビジネス書の『ビ』の文字すら無い。
こんなところに、スーツを着た佐久間が入ってなにをするのだろうか。ますます謎が深まる。とりあえず、何階に向かったのだろうかと思ったのだが、プレートを見ただけでは全くあたりをつけられない。颯真は、しかたがなく溜め息を一つ吐き、上から攻めようと思うのだった。
最初に来た5階には、佐久間の姿は見当たらず。そのまま4階、3階を確認するもいなかった。もしかしたら、もう用事をすませてしまったのだろうか。
意気消沈しながら階段を降り、2階のDVDやアニメグッズのエリアをとりあえず見渡す。
――あっ! いた。
眉間に皺を寄せながら難しい顔をしていた佐久間が、DVDの棚で何か考えているようだった。首を傾げながらさり気なく近づく。
そーっと、見つめていたDVDのタイトルを確認する。
――アイドルブレイク?
姪っ子へのプレゼントだろうか。5巻まで出ているようだから、どれを買ったらいいのか悩んでいるのかもしれない。そのアニメは見たことはないが、コンビニの景品でクリアファイルになっているのを薦められたことがあるから、なんとなくだが知っている。
これはチャンスかもしれない。それに、ピザの配達員の自分の顔なんて知らないんだから……と、拳を握った颯真は意を決して口を開く。
「あの……姪っ子さんのプレゼントですか?」
「え?」
颯真の声に振り向いた佐久間は、口を開いたまま驚きの表情で固まっていた。
――急に話しかけて、まずかったか?
片眉を寄せ「す、すみません」とボソッと告げると、佐久間は首をブンブンと振り、興奮気味に颯真の手を両手で握ってきた。
――な、なんだ?
「か、かえたん♡」
眉間に深い皺を刻み、怪訝な顔を向ける。
……かえたんだと?
手を握られ、腕をブンブン振り解きながら「はぁ?」と冷めた声が口をついて出た。
「え? 知らないの? 魔法少女カエデ」
「ま、ほう……少女カ、エデ?」
首を傾げながら佐久間を見やると、眉間に皺を寄せ考える素振りを一瞬したあとすぐに近くにあった棚から1枚のDVDを取り出す。
「ほら、これ」と、颯真にパッケージを見せる。
「これがなに?」
少し棘の含んだ声で告げると、佐久間は嬉しそうに微笑みながら続けた。
「君にそっくり。黒髪で、猫のように少しつり上がった黒目がちな瞳。俺さぁ、かえたんが一番好きなんだよね。まぁ、アニメ全般好きなんだけど。アニメディアに来るくらいなんだもん、君ってなにが好き? 俺、だいたい分かるよ。いつもさ、一人アニメ総選挙してるんだ」
興奮しながら一気に捲し立てる佐久間に面食らっていると――
「あ、ごめん。俺だけ興奮しちゃって」
「……いや」
「あ、そうだ。君、これから暇? 好きなアニメや漫画の話もしたいしお茶でもしない?」
「お茶? あなたと?」
「そう。せっかくだし、あ! 俺、怪しいものじゃないよ。はい、これ」
胸ポケットから名刺入れを取り出した佐久間は、そこから1枚名刺を颯真に手渡した。
そこには、細かい字で沢山の肩書が書いてあった。
爽和商事・資源エネルギー部門 電力再生可能エネルギー 課長。
颯真でも知っている有名な企業だ。長ったらしい部署名だけど、課長といえばそれなりの地位ではないだろうか。さっき、部下を連れて歩いていた姿も、キリッとしていてかっこよかった。
けれど、今はどうだ?
クールな外見から想像出来ない趣味に態度。そして、ピザの配達で見かける玄関先の上下グレーのスウェット姿。
――ほんとにコイツ、俺が憧れていた男だよな?
あわよくば一度でいいから抱かれてみたい。無理ならお近づきになるだけでもいいと願っていた相手のはずだ。
そんな狙っていた男が、こんなヤツだと思わなかった。憧れを抱いていた姿が音を立てて崩れていく。
名刺から視線を外して佐久間を見上げると、ニコニコと満面の笑みを颯真に向けている。
勝手にイメージを植えつけて、憧れて、ストーカーまがいにあとをつけて、それなのに佐久間の趣味嗜好を知ってショックを受けて――。
「すごい会社じゃ……」
「んー、すごいというより、すごく忙しいかな。家帰ったら、魂が抜けたようになってるし。食事も空腹を満たす義務みたいな感じで、ずっと同じもの食ってるしさ。記憶すら曖昧で。でも、週末にアニメ見て萌え♡ を供給すると、来週も頑張れるって思うんだよね」
こめかみをポリポリと掻きながら、恥ずかしそうに告げたその姿に目を見開いた。
週3のピザも、玄関での態度も、颯真の顔を覚えていないのも――全部、日中の繁忙のせいで。興味がなくて眼中にないからではなかったことに胸を撫で下ろす。
「そんなに仕事大変なんだ……。アニメしか癒やしてくれるのないの? ほら、彼女とか」
顔の前で手を振りながら「いないよ」と笑う。
「アニオタで、仕事も忙しくて。こんな調子なら無理じゃないかな。かえたんみたいな可愛い子も会社にいないし」
「か……え、たん……」
佐久間が手にしているDVDと佐久間を交互に見る。
――さっき、俺のこと『かえたん』って呼んだ。
どんな人かまだわからないけれど、大会社に勤めているのだからそれなりにまともなんじゃないだろうか。それに礼儀正しかった。
「やっぱり、急にお茶に誘われたら嫌だよね? それに、君の予定も聞かずに強引だった、ごめん」
自分より大きくて年上なのにシュンと肩を落とした姿が、どこか憎めなくて愛らしい。自分の直感が間違ってなければ、きっとこのひとはイイ人だ。
首をゆっくりと横に振り「ううん。俺で良ければ。俺は、森川颯真って言うんだ。佐久間さんの好きな『かえたん』が、男で悪いんだけど」
一瞬、瞠目した佐久間だったが「男の子でも女の子関係ないよ。だって俺の好きなアニメのキャラなんて画面の中にしか存在してないんだから」と、柔らかく笑った。
【4】
出逢いから半年。
週末の度に佐久間の家でアニメや映画を見て、お互いのことを話して……優しくてどこか憎めない佐久間のことがますます好きになった。そして、颯真の猛アタックの末、付き合うことになった。
あの時から、佐久間は何一つ変わっていない。アニメ好きで、颯真をかわいいと猫可愛がりして――なのに、俺は。
似合うと思って買ってきた服にケチをつけ怒って、無視して……仕事で疲れているのに佐久間が褒めてくれたかわいい姿ではない。
――俺のことをいつだって思ってくれてるのに。
心の中で溜め息をひとつ零し、フォークとナイフを置いた颯真は無言で立ち上がった。俯きながらゆっくりとハンバーグの付け合せの甘い人参を細かく切っていた佐久間は、焦ったように顔を上げた。
「えっ、そうちゃん、どこいくの?」
「佐久間さんは、ご飯食べててよ。ハンバーグ食べたかったんでしょ」
そう告げると、リビングを出て寝室へと向かった。そして、何事もなかったかのようにリビングに戻ってきた。
「ねぇ、佐久間さん」と、呼びかけると、ビクッと体を震わせた佐久間がゆっくりとドアの方へと視線を移す。
「これ、俺……似合う?」
恥ずかしさを隠すように俯きながら、両手でひらひらのスカートを少しだけ持ち上げた。
すると、ガタッと大きな音がしたと思ったらドタドタと足音を立て、ものすごい勢いで佐久間が近づいてきた。
「え、え、え、えぇぇ? そうちゃん、こ、こ、これ!!!」
「俺、男だし、こういうの似合わないよね、やっぱり。夢、打ち砕いてごめん」
スカートを握っていた手を掴まれ、首をちぎれそうなくらい大きく横に振った佐久間は「ううん。す、すっごーく似合う」と、興奮気味に言う。
「だって、サラサラの黒髪に猫耳で、白い肌に黒いワンピースやっぱ最高だよ。かわいい。キスしてもいい?」
「え? なんで?」
「ハンバーグより、そうちゃんを食べたい。あとで温めて食べるし、ダメ?」
首を傾げながら、目をキラキラさせる姿は反則だ。しかたないな、叶えてやろうかなという気にさせる。
「だ、ダ……メじゃ、な、いけど」
嬉しそうに微笑みながら、唇にチュッと軽いキスを落とされる。肩を掴まれ熱い眼差しを向けられたあと、ギュウゥゥ~ッと強く抱きしめられた。
「ち、ちょっと、痛いってば。も~、馬鹿力ッ」
「ごめん、ごめん。大好きって思ったら、つい」
抱きしめられていた腕を少しだけ緩められ、耳元に息を吹きかけられた。
「ひゃんっ。ちょっと……」
「ねぇ、もう一個お願い聞いてもらえる? せっかくだし」
甘い声で囁かれながらおねだりをされた颯真は、おそるおそる佐久間の顔を見やる。すると、目の奥には仄暗い光が宿っているような気がして、ゾクッと鳥肌が立つ感覚が全身を駆け巡った。
やばいと思い、急いで体を引き剥がしにかかる。けれど、逃れることが出来ない。
「大丈夫だよ。痛いことはしないし、俺がそうちゃんの可愛い部分引き出すだけだから。ね?」
上目遣いで不安そうに「ほんとに?」と、問う。
「今まで、俺が痛いことしたことないでしょ? そりゃあ、そうちゃんが感じすぎてイヤイヤをしちゃうことはあったけど」
「ちょ、そんなこと……」
「違った?」
「い、や……違うくな……いけど」
じゃあ、と佐久間は抱きしめていた腕を解き、颯真と少し距離を取る。
佐久間の顔を見つめながら何をさせられるのだろうと、ゴクッと唾を飲み込んだ。
「それ、捲くって見せて」と、人差し指でスカートを指す。
えっ、と小さな声を上げると「その下のもの見たい。そうちゃん、見せて」
有無も言わせない声がリビングに響く。
――もしかして、知っていているのだろうか。
恥ずかしさに一気に顔が紅潮していく。
「ね? 早く」
急かすような声が、冷静な思考を奪っていく。おそるおそる両手でスカートをフリルのエプロンごと捲くりあげる。
「もっと捲くって。そんなんじゃ見えないよ」
やっぱり、お見通しだったのだ、颯真がアレも身につけていることを。しかたがなく、言われるがままスカートを持ち上げると、黒いガータベルトと白いレースのパンティが露わになる。女物の小さなパンティには、おさまりきらなかった颯真の雄茎の先っぽが顔を出していた。
――き、消えてしまいたい。
佐久間の全てを受け入れて付き合っていたはずなのに、厳しく責め立てたことを後悔した。お詫びというわけではないけれど、喜ぶことをしてあげたかった。でも、ニーハイを抑えるためのガーターベルトに女物のパンティまで入っているとは思わなかった。これを着けると着けないじゃ、もしかしたら佐久間の喜び方が違うのかもしれない、と身に纏った。けれど――。
震える手でスカートを捲りあげていた颯真は「もういい? お、俺、着替えてくるから」と、スカートを下げようとすると、すかさず佐久間の声が飛んでくる。
「ま、待って。もう1個、本当に、もう1個だけお願い聞いて欲しい」
「え? やだよ。もう、お願い聞いたもん。恥ずかしいし、着替えたい」
「だーめ。お願いって、3個までって相場が決まってるんだから。ね? ラストだから」
よくわからない理論だったけれど、ここまで懇願されたのを断るときっとまた小さくなって落ち込んでしまうかもしれない。
――ほんと、大人なのか子供なのかわからないな。
キビキビと働いている仕事のできるビジネスマン、興味のないことには一切心を開かずどうでもいいと思っているかと思えば、アニメと颯真にはキラキラとした子供のような目で見てきて、好きだという感情を惜しげもなく表現する。
ハチャメチャな人だけど、どこか憎めないのだ。
「いいよ。なに?」と、ため息混じりに伝える。
「え? いいの?」
「ラスト1個。もうこれ以上、お願いは聞かないからね」
何度も何度も強く頷いた佐久間は「じゃあ……」と、切り出してきた。
*****
テーブルに手を付き、スカートを捲りあげられ颯真の丸くて形の良い尻が外気に晒されていた。しかも、白いパンティもずり下げられ、収縮を繰り返す赤く蕾には佐久間の雄がギチギチに埋まっている。
佐久間の願いは『スカートを纏ってそのままバックでエッチがしたい』だった。
後悔したのも後の祭り。今も、細い腰を掴まれ前後に激しく揺すられる度に、だらしなく緩んだ口から甘い嬌声が漏れる。
ぬちゃぬちゃとした水音と、肌がぶつかる音、そして甘美な声がリビングにこだまする。
「お尻差し出して可愛い声でおねだりして、とってもいやらしいメイドさん」
「は、んッ、あぁ……はぅ。ち、ちが……」
「ほら、違わないでしょ。パンティからはみでてる先っぽからいやらしい蜜も垂れてるし」
「あ、あんッ。は……、き、キツ、イ……あぅ、ぬが、せ、てぇ……」
「純白な下着、とっても似合ってるのに」
肉洞を擦られると気持ちよくてたまらないのに、どうしても意識が張り詰めた屹立にいってしまう。きつくて、くるしくて。どうせなら、脱がせて思いっきり扱いて欲しい。瞳に涙をためながら、コクコクと頷く。
しかたないな、とでも言うように佐久間が抽挿を早めるのと比例するように喘ぎ声も大きくなっていく。
「はぁ、あぅ、ああんッ、は……い、いい。きもち……」
そして、下着がズリ下げられたのと同時に白濁の液が飛び散った。
肩で息をしながら後ろを振り返り「お、れ……さ、くまさ……んには、あま……いみ、たい」と微笑む。
「俺は、世界一幸せ者だよ」と、佐久間は颯真の頬にキスを落とした。
【了】
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