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all right、all right 柏木あきら
1、変わり者
柿崎真は昔から言われていた言葉がある。
「変わり者だね」
幼少の頃から周りにそう言われていた。
一番古い記憶は、幼稚園の頃。
授業で『お空を描きましょうね』と先生に言われ、絵を描いた時のことだ。本来なら屋外へ写生へ行く予定だったが、雨が降ったため室内でのお絵かきとなった。
みな、画用紙いっぱいに太陽を描き、空を青く塗っている。
真はその時、画面いっぱい〈灰色〉に塗った。
それを見た他の子供たちが、真の絵がおかしいと騒ぎ始める。
『あっ、なんでネズミの色なのー』
『おかしいよねー』
指をさされて笑われ、俯いていた真。先生は笑わないの、と他の子供たちを制しながらも『お空は青く塗ろうね』と一言、真に告げた。
幼い真は、言い返す事もなく自分の描いた絵をグシャっと丸める。
(僕は、曇ったお空を描いたのに)
空は青なんて誰が決めたんだろう、そんなことを思いながら。
中学生の頃は、いつも小説を鞄に入れておき、休憩時間に読んでいた。
読書をすると空想の世界に行けるし、かったるいクラスメイトの遊びに付き合わなくてもいい。
そんな真をクラスメイトは遠巻きにして見ていた。
『アイツ、いつも本読んでるよなあ』
『変わってる奴だよな。俺なんか本読んだらじんましんが出るよ』
真はヒソヒソ話をしているクラスメイトに嫌気がさし、ますます読書に逃げていくようになった。
もともと人との接し方も上手くない真。気がついたらどんどん孤立していった。
このままだとかえって面倒くさいと感じた真は、遠く離れた高校を受験、入学して〈人と適度に合わす〉ことを実践するようになる。
人に合わせるというのは、なんて窮屈なんだろう。
そんなことを思う自分はやはり〈変わりもの〉なんだろうか。
幼い頃からすっかり変わり者のレッテルを貼られていた真は、高校生になってそのレッテルを隠し通そうと決意した。
〈普通〉の人であるように、自分を隠しながらそう生きることを選んだのだ。
高校では最低限の友人もでき、息苦しさを感じながらも普通にやり過ごす。
仲間内で彼女が出来ただの、クラスメイトの女子に点数つけたりだの盛り上がっていたが、真はその盛り上がりについていけなかった。
男子高校生であれば異性に興味が沸くことは当然の筈だが、可愛いとは思うものの、付き合いたいとまで思ったことがなかった。
友人の繋がりだけでも辛いのに、恋愛など出来るわけもない。
ただ、その思いとは裏腹に、真は身長が高い上に整った顔をしている為、女子からは人気があった。寡黙でかっこいい、と噂されていると友人たちから聞いた時「迷惑だ」と感じたが、それを言葉にすることはなかった。積極的な女子高生から何人か告白を受けたこともあったが、結局、付き合うことはなかった。
***
(あー、今日は掃除当番だっけ…)
真は掃除当番表を確認して、自分の名前が載っていたことに気づいた。自分だけが当番なら気が楽なのに、二人一組という決まりになっているので誠は思わずため息をつく。
放課後の教室で、箒を持って掃除の準備をしていると、もう一人の当番、姫野陸斗が現れた。
「あ、今日柿崎が当番なの」
見りゃわかるだろ、と思いながら柿崎は頷いた。自分より少し背の低い姫野。今まであんまり話した記憶がない。
姫野の性格は真と正反対だった。よく喋り、よく笑う。クラスメイトの中でも中心メンバーに近い。そんな彼との接点などほぼ皆無で、もしかしたら、面と向かって話をしたのも今日が初めてかもしれない。
さっさと掃除を終えて、帰ろうと真は無言で掃除を始めた。が、どうやら姫野はおしゃべりが大好きなようで、掃除しながらあれこれと話しかけてくる。真はその話に一応、答えるものの正直、面倒でたまらなかった。
(あと何分続くんだ、この地獄……)
そう思っていた時、不意に姫野が真にこう言った。
「柿崎さ、前から思ってたんだけど、人に適当に合わせてるだろ」
真はギョッとして姫野の顔を見た。少しいたずらっ子のように上目遣いで笑う姫野。
「……何で、分かるの」
「僕、そういうの分かるんだよね。あー、適当に合わせてんなって」
箒の柄を顎に当てて真を見る姫野。日本人にしては茶色がかった瞳。姫野の顔をゆっくり見たのは今日が初めてだった。そして姫野が口を開く。
「お前の秘密、握ってやったから、明日の昼飯おごってよ」
「は、はあ?」
何を言われるのかと覚悟していた真の力が抜けて、思わず笑う。
「僕カツ丼食べたいな」
高校二年の春。真にとって初めての〈気を使わなくていい友人〉姫野陸斗と笑い合った瞬間だった。
それからの真の高校生活は今までと一変した。
何かと陸斗は真とつるむようになって、気を使わなくなってきたせいか、他のクラスメイトとも以前ほど力を入れずに接する事ができるようになっていた。話してみればそんなに怖がるようなことではなかったように思えた。
自分で自分を追い詰めていたのかもしれない、と考える余裕さえ出ていた。
そのきっかけをくれた陸斗に真は感謝をしていた。ただ、照れ臭くて本人には言っていないけれど……。
2、同居人
「真は専門学校に行くんだっけ」
陸斗が、あんパンを齧りながら真に聞いてきた。放課後の教室で部活前の腹ごしらえだ。陸斗は弓道部に所属していて大学受験のために、あと少しで引退する。真は帰宅部だったので、授業が終われば帰れたのだがいつも陸斗の部活が始まるまでの時間、一緒に過ごしていた。
「ああ。俺、お前みたいに賢くねぇから」
窓の外の夕陽を眺めながら、真が答えると陸斗は別に賢くないよと呟いた。
「お前らが離れ離れになるとは想像つかねぇなー。いつもベッタリだしな」
そう言ったのは、同じく弓道部の星塚。隣で頷くのは網本。卒業まで四人でよくつるんでいた仲間だ。
「真はとにかく陸斗を甘やかしすぎなんだよな」
「うっせーよ」
星塚の後頭部を真が叩くと、いい音がして陸斗たちが大笑いした。
「まあ、大学行ってもさ、たまには逢おうよ」
夕陽で染められた教室の中で確かにそう約束した。
***
それから三年。結局この間に会えたのは二回だけだ。四人で会ったのが一回、陸斗と二人で会ったのが一回。もっと会えるかと思っていたが、それぞれ新しい生活になればそんなものだと真は感じた。
この三年で、真の生活は目まぐるしく変わった。二年で専門学校を卒業し、就職活動。そして入社して今は社会人一年目。実家を出て、隣の市で一人暮らしとなった。
毎日、覚えることが多くてクタクタになっている真はいつの間にかまた、他人との交流が辛くなっていた。それは陸斗たちと別れて専門学校のころからわかっていたが、社会人になってはっきり自覚していた。
陸斗と会ったときは入社して三ヶ月目の時で、少し痩せた真を見て心配してくれていた。
「大丈夫だよ。お前と違ってもう社会人だぜ」
そう笑った真に陸斗も、少し笑った。
そして今日。久々に来た陸斗のメールに、帰宅してビールを飲んでいた真は、あやうく吹き出しそうになった。
『そっちに住むことになったんだけど、物件決まるまで同居させてくんない?』
「はぁぁぁぁ!?」
画面を見て思わず声を出して、慌てて陸斗に電話をする。三コールして元気のいい陸斗が出た。
『あー!真。久しぶりっ』
『お前、同居って何だよ』
『今、内定もらってる会社がそこの近くだからさ、ちょいと住んでみようと……そしたら真がいたなあって!いいじゃん、楽しく一緒に住もうよ』
陸斗の勢いに、逆に真が飲まれそうになる。そういえば高校生の時もそうだった、と思い出す。
真は勢いよくお願い事をしてくる陸斗に、一度も勝てたことがない。結果として陸斗の要求を毎回飲むものだから『真は陸斗に甘い』と星塚達にからかわれていた。
『それとも、僕と暮らすのは嫌?彼女出来たとか』
少しだけ声のトーンを落として陸斗が言う。彼女がいないことを分かっていながらあえて言ってるに違いない、と真は気づいた。
『……分かったよ、一緒に暮らしてやる。だけど一つ条件がある』
『なになになに?』
『俺はお前を甘やかさないからな!自分のことは自分でしろよ!』
『あったりまえじゃーん!了解!』
やったー、と陸斗が電話の向こうで喜んでいた。
***
「真、歯磨き粉がもうないよー」
朝の忙しい時間帯に、陸斗ののんびりした声が洗面所から聞こえた。真がネクタイを結びながらパンをトースターで焼こうとした時、陸斗が台所にやってきた。パジャマ姿にボサボサの頭で。
「聞こえてる?」
欠伸をしながら近づいてきた陸斗に真は聞こえてるよ、と答えた。
「歯磨き粉は洗面台の下の扉のとこにあるって前、言っただろ!」
「そうだった?少なくなったら、出しておいてよ」
「自分のことは自分でしろ!」
真が陸斗のほっぺたをつねってそう言うと、ファイと気の抜けた返事が戻ってきた。
陸斗と暮らすようになって三ヶ月。
初めは陸斗とはいえ、他人と暮らすことに不安を感じていた真だが、思ったより快適に過ごしていた。
今までなら仕事に行き、一人の部屋に帰宅して、コンビニ弁当をつつきながらぼんやりテレビを見て寝るというルーチンだったが、陸斗が来てからは毎日が騒がしい。
朝からうるさいし、帰宅してもうるさい。陸斗はまだ大学生なのでここから通学しているのだが、朝は真よりあとに出るので、ノンビリしている。身支度に忙しい真にかまってサインを出してくる。
夜は気が向いたら陸斗が料理してくれるが、片付けは真の担当だ。ご飯を食べながらも喋るし、終わっても喋る。まあよくこんなに喋れるものだ、と感心するほどだ。
結局、真は陸斗のトーストとコーヒーを一緒に準備してやった。陸斗は入れてもらったコーヒーを飲みながら、爆発している髪の毛をくるくるいじっている。
「今日は遅くなる?」
「水曜日だからノー残業デーだ、早いよ」
「じゃ真が晩ご飯作ってくれる日だね」
陸斗の方が早く家に帰宅するはずなのに、何かと真に料理させたがる。真は明らかさまに嫌な顔をしたが陸斗はニコニコしながら『晩ご飯何だろうな〜』と鼻歌を歌う。
「……仕方ねぇな。いつものうずらの卵のやつでいいか?」
「やったー!ご飯は炊いておくから任せといて!」
なんじゃそりゃ、と真は笑う。結局、真は陸斗に甘いのである。
3.想い
職場での仕事は、ようやく慣れてきた。ファイリングなどの作業から少しずつ数字や企画立案などに携わらせてもらえるようになってきた。
昼休憩のチャイムがフロアに響く。
「よし、行くかぁ」
最近は、上司である氷川と一緒に昼ごはんを食べることが多く、今日も一緒にうどん屋で食べることになった。
「柿崎、最近明るくなったな」
うどんをすすりながら、氷川がそう言ってきた。
「そうですかね?何も変えてませんけど」
「んー、何だろうな。雰囲気がわかったっていうか。私生活でなんか変わったことあった?」
変わったこと、と言えば陸斗と一緒に暮らし出したことくらいしかない。
あ!と氷川がニヤニヤしながら真を肘で突いた。
「な、何すか」
「彼女出来たんだろ!もしくは彼女と同棲はじめたか?最近ふっくらしてきたもんなぁ!」
「違いますよ!友人と同居始めたんです!男ですよ」
慌てて真が否定すると、氷川は何だ男かよと笑う。
うどんを食べ始めた氷川をチラッとみて、真は自分の頬をさすった。その頬は赤く染まっている。
(赤くなったの、バレなきゃいいけど……)
***
陸斗が一緒に暮らしたい、と言ってきた日。ふいに高校生だった時の、胸の疼きを思い出した。
自分は他人と接触出来ないと思っていた頃。彼女が出来ないのもそのせいだと思っていた。
他人と一緒にいたいなんて、真は思ってなかったはずなのに。
陸斗が一緒にいてくれると安堵する。笑顔を見ると幸せになる。他のクラスメイトと話をしている姿を見ると、落ち着かない……
(ああ俺……陸斗が好きなんだ)
そう自覚した時には、もう卒業式が間近となった春。今更告白したって別々になるのに、何のメリットもない。むしろ嫌われて音信不通になるくらいなら、自分の気持ちに蓋をしておこう、と真は考えた。
『同居させて』
それからあのメールがくるまで。気持ちは抑えられていたのに、まさか一緒に住むなんて。
***
「柿崎!」
帰宅途中のスーパーで突然、自分の名前を呼ばれた真は驚いて声のする方を向いた。
野菜売り場の向こう側に黒いシャツを着た、背の高い男がいて手を振っている。近づいて見るとその男が、高校のクラスメイトであることに気づいた。
「星塚」
「久しぶりだな、元気してた?」
陸斗と一緒の弓道部に所属していた星塚だった。高校を卒業して一度しか会っておらず、その頃より幾分髪色が明るくて長くなっている。
「おお。それより何でこんなとこに?」
星塚は大学に進んだが、真の記憶だと他の市の大学に進んだはずだ。なぜここに居るのだろうと、不思議でたまらなかった。
「彼女がここに住んでてさ。デートの帰りで」
「……あー、そういうこと」
お熱いことで、と真がからかうと、星塚は照れながら笑った。先月から付き合い始めて、まだ三回目のデートだという。
「柿崎は就職したんだったよな?この近く?」
「うん。職場も近いし住んでるところも近所」
「へえ……、じゃあさ、今度みんなで集まってお前のところで飲もうぜ」
長いこと会えてなかったし、姫野と網本にも連絡してさ、と星塚は笑いながら言う。
陸斗は一緒に住んでいることを星塚たちに言っていないのか、と真はふと思った。
「柿崎?」
呼ばれて、ハッとする。隠すのもアレだな、と真は感じて陸斗と一緒に住んでいることを告げた。
「へえ、姫野と?知らなかった」
星塚は一瞬、驚いた顔をしていたが、すぐ元の顔に戻ってじゃあ好都合じゃん、と言う。
「網本は俺から連絡するからさ。姫野に許可もらっといてよ」
笑いながらじゃあな、とその場を去って行った。後に残った真は、手にした白菜を持ったまましばらく立ち尽くしていた。
(許可って俺の家だぞ!)
「え、星塚に会ったの?」
家に帰って真が料理をしながら陸斗に告げると、少し驚いた顔をした。
「会ったというか、偶然な。アイツの彼女がここに住んでるらしいよ」
真がフライパンで炒め物をしていると、陸斗は立ち上がって皿を準備してきた。
「お、今日は気がきくじゃん。俺、今から忙しい時期になるからさ、星塚と連絡しておいてくれない?」
真がそう言うと、陸斗は皿を置きながら答える。
「真、俺みんなに会いたくない」
「……へ?」
意外な言葉が返ってきたので、真は思わずフライパンを置き陸斗の方を向いた。
下に俯いたままの陸斗は、少しだけ拗ねたような顔をしている。
「何で……」
「……とにかく、僕は参加しないから」
こんな風に言いだすと陸斗は言うことを聞かない。
小さなため息をついて、真は陸斗の頭にポンと手を置いた。
「分かったよ。お前が嫌なら、ウチで飲み会は止めような」
『姫野が嫌がってるから、飲み会しないって何だよ』
星塚からそうメールが来て、真はだよなあ、と一言呟いた。
昨日の出来事があって早々に返事を出したものの、真が直球すぎた返答をしてしまったため、星塚が呆れていた。
『何か俺の知らないとこであった?』
真はそう返信したが、星塚の返事はそこから来なくなった。
(怒ったのかな)
後味悪くなってしまったなあ、と真は頭をかいた。せっかくの友人なのに。
***
「……で、聞いた方が早いからって、スーパーで待ち伏せしたっていうことかよ」
星塚がため息をついて、掴んでいた長ネギを棚に戻した。真が頷くとますます大きなため息をついた。星塚の隣にいた彼女は、二人を見てオロオロしていた。何か喧嘩でも始めるのではないかと思っているようだ。
「マキちゃん、ごめんけど先に家帰ってて。まだ明るいけど気をつけて帰るんだよ」
「あ、うん。ご飯、炊いておくね……」
一礼してマキちゃんは去ろうとした時、デート邪魔してごめんね、と真が言うとホッとしたようにマキちゃんは微笑んだ。
とりあえず、イートインコーナーでコーヒーを飲みながら、事の次第を真は星塚に伝えた。陸斗が家での飲み会を嫌がったこと、星塚の名前を出した時にかなり驚いていたこと。
「悪いな、俺のせいだよ。まさか姫野とお前が一緒にいると思ってなくて」
少しだけ寂しそうな顔をして星塚は話し始めた。
***
大学から陸斗が帰宅し、鍵を開けようとしたら、玄関の施錠がされていないことに気づいた。そっと開けてみると、玄関には真の革靴がある。定時の17時前なのに、もう帰ってきているのだろうかと玄関で誠を呼んでみた。
「真?帰ってるの?」
返事は帰ってこない。でも明らかに人の気配がする。陸斗はダイニングの方へと進むと、真がテレビを見ながら、頬杖をついていた。
「帰ってきてんじゃん。どうしたの?体調が悪いの?」
荷物を置いて真の方を見る。ギョッとしたのは陸斗だ。
「どうしたの、何で泣いてんの」
「陸斗」
椅子から立ち上がると、真は突然、陸斗に抱きついた。
「ちょ、ちょっと!真!」
「星塚から、色々聞いてきた」
その名前を言った時、陸斗の体が硬直した。
「……」
抱きついてきた真の身体を、陸斗はそっと離す。
少しだけ拗ねたような顔。言うことを聞かない、陸斗の顔だ。
「ごめん、真。気持ち悪いよね、勝手に惚れられて、勝手に押しかけてこられて」
ーー星塚からの話は、こうだった。
『姫野はさ、昔から男の方が好きなんだよ。俺らはそれ知ってたんだけど。そりゃ最初聞いた時は驚いたけどさ。そのうち、俺らも慣れてたんだ。……ああ、この先ほんとに俺が言っていいのかな……。ある日、惚れた奴がいるって言うから聞き出したんだ。そしたらさ、お前だったんだ。まだその時は、お前一人だった時だけど。姫野、ずっと気になってたらしいんだ。一人だったお前のこと。まあ、それで仲良くなったのはいいんだけど。大学行く前に告白するって言うから、俺らが……止めたんだ。と言うか俺らのエゴ。【友人】のままでいて欲しかったんだ。お前らがうまくいかなくなったら俺らまで会えなくなるだろって……』
その後、四人で会った時は確かに楽しく過ごせたが、やはりどうにも後ろめたくて会えずじまいになった、と言うことらしい。
『俺はてっきりもう、お前のことあいつは諦めてたと思ってたから。まさか家にいるなんて思わなくて……でも時間たったからもう大丈夫かなって思ったけどやっぱ、許してくれなかったんだな』
こんな話したから、会ってくれないだろうな、もう四人で会えないな、と星塚は謝りながら呟いた。
「いつか言おうって思ったけど、もう星塚が言ってくれたからいいや。ごめんね、僕、真が好きだったんだ」
拳を強く握って陸斗はその場を離れようとした。
「陸斗、待って」
「もう出て行くから!気にしないで!」
「待てってば……!」
陸斗の手を取り、強く握る。気がついたら陸斗の大きな瞳から涙が流れている。
「……なあ、まだ結論出さないでくれよ。頼むから」
「だって」
「また四人で、会えるから」
「会えないよ、こんなんじゃ」
「陸斗、聞いてくれよ!……俺、気持ち悪くない」
「……へ」
「俺の気持ち、星塚に先に言ったんだけどさ。……俺も、お前が好きなんだよ」
陸斗は大きく目を見開いたがすぐに目をそらせた。
「そんなワケ……」
そう言いかけた陸斗の身体を、真が正面から抱きしめる。
「俺さ、お前が話しかけてくれて、みんなと仲良くなってすごい嬉しかった。だけど段々俺以外の奴と、陸斗が仲良くしてるの見るのが嫌になってさ。初めはただの友達としてのやきもちかと思ってたけど、違ってたんだ。それに気づいたけど卒業までに告白できなかった」
陸斗の身体をさらに抱き寄せながら、真が呟いた。
「あの時、告白していたら、こんなに遠回りしなくてよかったのにな」
「……嘘だあ……」
「ホントだよ、だから俺、いつもお前を甘やかしてただろ。お前が可愛くて、つい。ああでもほんとは、お前が俺を甘やかしてくれてたから、友達もできて職場でもうまく行けるようになったんだ」
真は陸斗の瞳を覗き込んで言う。
「だから、恋人宣言も兼ねて、四人で会おう」
その言葉に陸斗は声をあげて泣いた。
「何年、悩んでたと思ってるんだよ……!ってかなんで先に星塚に言うんだよ!」
「えっそこ?」
真は陸斗の体からそっと離れると、陸斗は真っ赤な顔を手で覆った。
「どんな顔して会えって言うんだよ〜〜!」
なんだそりゃ、と真が笑う。ひとしきり笑うと、陸斗も手を離して少し笑った。
「……ありがとう、真!」
不意に二人の視線が絡みついて自然と、唇を重ねた。
(……柔らかい)
唇を離した後に、真はそっと指で陸斗の唇に触れた。
「キスも、たくさんしたい」
「……僕も」
「その後も、もっと、したい」
「……検討しとく」
「えっ」
「嘘だよ」
くすくすと笑うと、陸斗は真の耳元で囁いた。
「本当は、すぐにでもしたい。だって何年も真をオカズに……」
真は陸斗の口を手で塞いだ。
「わかったから!」
その顔は真っ赤になっていた。
タガが外れる、って言うのはこういうことなんだな、と真は感じた。
さっきまで青春の淡い恋愛話をしていたはずなのに、もう二人の息は荒くなっていた。
「……あっ」
濃厚なキスを繰り返しながら、真は陸斗の体中に舌を這わせる。首筋、耳たぶ、薄い胸元の突起。丁寧に舐めていくと陸斗の口から甘い声が発せられた。
そろりそろりと真は陸斗の中心にあるそれを手にすると、そっともみしごいていく。
「あ……あっ、ちょっと待って」
「どうして」
「何で、僕が、下なの。真は体験あるの?」
「ないけど、お前の方が可愛いんだから下でいいだろ。それに俺はお前を甘やかしたい」
陸斗の顔が赤くなる。返事がないことを肯定と取って、真は先に進める。
しごいたその先端からトロトロと透明のモノが滲み出る。その液体を手にして、そっと後ろの方へと持っていく。
「ひゃ……、ああッ」
ゆっくりゆっくり、指で広げていくとグチュグチュと音が聞こえ始めた。
「いやらしい音がするね」
「……う、ん……。気持ち、いい」
さっきよりさらに息が上がり、とろんとした陸斗の顔に真はゾクリとする。真自身も大きくなっていて、かなり辛くなっている。
「なあ、一日目でフルコース、してもいい?」
「……いいと思うよ」
そっか、と真が嬉しそうに笑って、陸斗のソコに自分のモノをあてがう。挿入される緊張に、思わず陸斗の体がこわばると真は耳元で囁いた。
「好きだよ、陸斗」
そして陸斗の中にゆっくりと入っていく。
「……!やあッ……、あ……ッ」
ゆっくりとほぐしたその場所に、陸斗は真を受け入れた。揺さぶられて、抜き差しされて激しく突かれて。
「まこ……とッ、気持ち、イイよお……あッ、ああ……はあッ」
「陸斗……おれも、気持ちいい……ッ」
二人の汗がぼたぼたと流れていく。
「も、イっちゃ……うッ……あっ」
「イケ、イケっ……!」
「あ、ああっ……!あああッ!!」
二人の身体が痙攣し、陸斗はソレを思い切りぶちまけて、真は陸斗の中でソレを放出した。
***
「だからって赤飯」
真の部屋に来た星塚と網本は、目の前にあるご馳走に目を輝かしながら、テーブルに鎮座している赤飯に目を向けて、呟いた。
「まあ、こういうことになったし。キューピッドにもなってくれたしね」
真がサラッというと、陸斗が『キューピッドだけど、そもそも、告白を止めたこいつらが悪い』とブツブツ言っていた。
「ソレに関しては悪いと思ってるよ。結局両思いなんて、思わねえじゃん」
星塚がふてくされてように言うと、配膳を手伝っていた網本が笑いながら言った。
「でも四人がこうして集まれる日が来てよかったよ!じゃ乾杯しよ!」
変わり者と言われてきた真はようやく、これでもいいんだと安堵していた。それは陸斗が隣にいてくれて、真は真のままでいいんだよと甘やかしてくれたから。
「ありがとう陸斗」
その言葉は、照れ臭くて、まだ言えない。
***
「真〜!ネクタイ締めてーーー!」
「お前、ネクタイくらい自分で締めろ!練習しないといつまでたっても一人でできるように何ねえだろうが」
忙しい朝の一コマ。忙しいと言いながらも結局、ネクタイを締めてやる真。今日は陸斗の内定式だ。
ネクタイを締めれば準備完了。一緒に部屋を出て、駅へと向かう。一緒の時間に出勤するのなら、そう遠くない会社なんだな、と真は今更のように思った。
「お前の会社、どこで駅、降りるんだ?」
「**駅」
「へえ、俺の職場と同じ駅なんだな」
「……あれ、言ってなかったっけ」
「?」
陸斗はいたずらっ子のように笑って、真に告げた。
「真のいる会社に、内定もらったんだよ」
「な、なに……!」
思わず歩くのをやめて止まってしまう真。
(いやいや聞いてねえし!)
「よろしくね、先輩」
「り、陸斗〜〜!」
【了】
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