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「……さっき逃がさないと言ったばかりだろうが」
御堂は私の言葉に呆れたような様子でそう言ってくる。思っていたほど、すんなりとは帰してくれないようで。
「そうだけれど、私だってお腹が空くもの。そろそろ帰って夕食の準備をしなくちゃ……」
そういうと同時に私のお腹から「くうっ」と音がする。私は御堂から見られないよう両手で赤くなった顔を隠したが、どうしてこんなタイミングで鳴るのだろう。
「俺と抱き合っているのに緊張感のない腹の虫だな。まあいい、俺が夕飯を作れば紗綾はまだここに居れるんだろう?」
「誰が……夕飯を作るって?」
まさか、御堂が料理をするっていうの? とてもじゃないけれど、そんな彼のそんな姿は想像出来ないのだけれど。
「俺が、だ。こう見えても父子家庭で育ってきたからな、料理はガキの頃からやっているぞ」
「父子家庭……? え、おばさんは?」
子供の頃には何度も【かんちゃん】のお母さんとは会っている。長い黒髪の、とても綺麗な女性だった。
「紗綾は、何も聞かされてないんだな。まあいい、その話はいつでも出来る」
御堂はそういうと私からそっと離れて寝室のドアを開けると、そのままのキッチンまでスタスタと歩いて行ってしまう。少しさっきの話が気にはなるものの、深く追及はせず彼の後をついていく。
……でも、本当に彼が料理を作ってくれるのかしら? 御堂はそうまでして私を帰したくないのかと思うと、何だかちょっとだけ胸がくすぐったかった。
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