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「まあいい、俺が割れなければ、このまま紗綾が卵を割ってくれれば済むことだ」
「ど、どうして私が……きゃあっ!」
御堂は持っていた卵をボールに戻し、空いた左腕で私の腰をグッと引き寄せる。
ピタリと背中が御堂の身体とくっついてしまって……伝わってくる彼の体温に、ドクドクと心臓がうるさいくらいに音を立てる。
「どうした、紗綾。卵の割りかたも知らないのか? 仕方ないな。ほら、こうやって……」
御堂は私の手のひらに手を重ねて、子供にでも教えるかのように卵を持たせる。しかもピタリと私の背中にくっつかれているせいで、御堂の吐息が首筋にかかってかなりくすぐったい。
「分かるってば、そんな事をしなくてもちゃんと出来るからっ! だから離してよ!!」
御堂のこういう意地悪に、とてもじゃないけれど太刀打ち出来なくて。私はこんなに追い詰められているのに、逆の立場である御堂は涼しい顔をして笑ってる。
とんでもなく悔しいのに、そんな風に笑う彼を嫌いにはなれない。
「ああ、紗綾は素直で可愛い反応をするから躾けがいがあるな。このまま離すのは少々惜しい気もする」
「か、可愛くなんてっ……!」
御堂の言葉で熱くなった顔が、ますます赤くなってしまう。意地悪な事を言われているのに、どうして私は彼を喜ばせるような反応しか出来ないの?
「そういう所だ、紗綾。こんな反応を何度も見せられてるんだ、いつまでも我慢してやるつもりはないからな?」
「我慢って……」
私を抱き寄せていた腕の力が強まって、彼が私を本気で欲しがっている事を思い知らされる。
でもね、御堂……私はまだまだ貴方からの気持ちに応えられそうにない。
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