逃がさない

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 そんな私の気持ちはお構いなしで、御堂(みどう)は後ろから私の首筋に息を吹きかけるように囁くの。 「そう、俺だってこうしていて何も感じないほど枯れちゃいないんでね」 「そ……そんな事言いながらも、私の許可なく貴方は勝手に触れているんじゃないの!」  私が御堂から一生懸命距離を取ろうとしているのに、全部壊して近付き触れてくるのはいつも貴方の方じゃない。 「言ったはずだ、紗綾(さや)が嫌なら本気で拒めば良いと。こうされても逃げないのだから、抵抗する気が無いのだと俺は受け取っているが?」  そうね、本気で逃げようとしてないのは私。どこかで強引に貴方が捕まえてくれないかと少しだけ期待してる。  ずっと、そんな狡い自分が見え隠れしてて。 「……逃がそうなんて、本気で思ってないくせに」 「そうだな。少なくとも紗綾がこうして俺の腕の中にいる間は、簡単に逃がす気にはなれない」  ぎゅっと両腕に力が込められて、ちょっとだけ苦しい。御堂の気持ちに応えられないのに、彼を拒むことも出来ないでいる。そんな自分自身を、私はどうすればいいのだろう? 「俺を選ぶんだ、紗綾……」  熱を帯びたかすれた声で囁かれて、私は御堂に心臓を鷲掴みにされているような気分になる。彼の熱に酔わされて、頭がクラクラしてしまうのだ。 「そんなにあせらせないで。私だって、もう少しくらい時間が欲しいの……」  御堂の右腕に顔を埋めて、懇願する。後ちょっとでもいいから、時間をちょうだいよ? ちゃんと、貴方と向き合う努力をするから。
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