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「紗綾、付いてるぞ」
「え?」
御堂が私に自分の口元を指さして見せる。御堂の言っているのがオムライスのソースだと分かって、私は慌ててティッシュで口元を拭おうとしたのだが。
「……違う、そっちじゃない。こっちだ」
そう言うと同時に御堂が私の右頬についているソースを自分の親指で拭ってしまった。そのまま彼はその指を舐めて――私を見つめてニヤリと笑う。
「……そうやってあなたはすぐに私が恥ずかしがるようなことをする」
悔しくて睨みつけて文句を言っても、御堂は痛くも痒くもないようで。いつもこうやって、私一人が空回りする。
「いちいち紗綾の反応が可愛いからな。どれだけ見ていても飽きそうにない」
御堂は楽しそうに笑うだけで、反省なんてかけらもしていない。彼は、きっとまた私で遊ぶつもりなのだろう。
「これ以上御堂に見られたら減るかも……」
「それは困るな、紗綾は今のままでいろ。ほら、ちゃんとスープも全部食べるんだ」
ぽんぽんと頭を撫でられて、食事を再開する。
「それは困る」なんて言ったくせに、御堂はやっぱりずっと私を見てるじゃない。でもいつもよりずっと優しい彼の視線は、そんなに嫌じゃなかった。
……この日は遅くなったからと、御堂が私の部屋の前まで送ってくれた。戸締りをきちんとしろと、それはもうしつこく言われたけれど。
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