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「ちょっといいかな、長松さん? ここに書いている資料を使いたいんだ、悪いけど資料室から探してきてもらえないか?」
御堂から渡されてメモには、普段使わないような資料がいくつか書かれている。これは、他の社員には頼みにくいわね。
「御堂さん、この資料は急ぎで必要ですか?」
「出来るだけ早く頼みたい。俺はここに来たばかりであまり分からなくて、悪いね」
そう申し訳なさそうに言う御堂。私と二人きりの時はそんな顔は見せないくせに……本当に会社では人の良い課長代理、なのよね。
「そうですか、分かりました。丁度きりの良い所まで終わったので、今から探してきます」
メモを持って立ち上がり、隣の席の横井さんに資料室に行ってくると告げる。
資料室はあまり大きくないし、普段人があまり入らないから埃っぽい。資料を探す間だけでも空気の入れ替えをしようと思いカーテンと窓を開けていると、後ろでドアの開く音がする。
珍しい、他に誰か何かを探しに来たのかしら? そう思って振り返ると、そこに立っていたのは鋭い目付きをした御堂で……
「どうしたんですか? 資料ならこれから探すところですけど」
嫌な雰囲気を感じ御堂から一歩下がってそう言うと、彼は後ろ手でドアの鍵を閉める。そんな事をしなくても、御堂がそこに立っているから私は逃げたり出来ないわよ。
「紗綾、俺が何を言いたいかお前はすでに分かっているだろう?」
……ああ。私をここに来させた理由は、やはり資料だけでは無かったのね。分かってはいたけれど、まだ誤魔化す方法が思いついてなかったのに。
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