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 それから三日後の日曜日の夕方、百合菜が直太朗に対して決定的に嫌気が差す出来事が起きた。  デパートへ行った帰り、電車の中で直太朗は百合菜と一人息子そっちのけで何も会話をせず、座席に座っていた。無言の原因は斜向かいに座っていた、喘息マークのバッジを胸に付けた女だった。彼はいつ咳をするかいつ咳をするかと見入っていたのである。  百合菜は横にいて直太朗の殺気立ったノイローゼ気味の目が尋常でない精神状態を雄弁に物語っているのを見て取り、気が気ではなかった。そして彼女が懸念していたことが遂に起こった。くだんの女が咳込み始め、マスクをした口を押え、必死に咳を抑えようとしても自分の意志ではどうなるものでもなく咳が一向に止まらないのを見て直太朗が切れたのだ。 「このコロナ野郎!俺たちを感染させる気か!」 「あなた!彼女は喘息持ちなの!分かるでしょ!彼女はコロナとは関係ないわ!」と百合菜が叫びながら掣肘を加えて直太朗を何とか落ち着けさせようとしたが、完全に血迷っていた彼は猶も怒鳴った。 「何でコロナ野郎が電車に乗るんだ!」  彼らが乗っていた車両には彼ら以外に4人いたが、誰も注意する者はいなかった。それどころか4人とも他の車両へ逃げ移ってしまった。それを見て同じ日本人として百合菜は心底情けなくなった。そんな彼女を彼女と手を繋いでいた息子諸共強引に引っ張り上げて立ち上がった直太朗は、泣きわめく息子に縋りつかれた妻を無理矢理、他の車両へ連れて行った。彼女が離婚する決意をしたとも知らずに・・・
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