選ばれたのは?

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選ばれたのは?

緊張を誘う、厳粛とした空気。今、不用意な音を一つでも立てたものなら、いくつもの視線が僕に集まり、気まずさに押し潰されてしまいそうだ。 僕は息苦しさに、そっと一番上まで締めていたシャツのボタンを外す。微かながら首元が緩やかになると、腹の底の深いところから空気を吐き出した。ゆっくり吸っては吐いてを繰り返し。そうして幾分か落ち着くと、机上に置いていた視線を部屋の中に走らせる。 天井から垂れる、光り輝くシャンデリアが目に留まった。 この部屋だけで総額いくらするのだろうか。瞬きをしながらそんなことを思う。ふわふわの絨毯に謎の造形をしたオブジェクト、壁に飾られた抽象的な絵画の数々。何度訪れようと慣れることのない豪華な広間だ。 そんな広間の中央に向かい合うように置かれたソファ二つ。そこに僕を含めて四人の人間が腰を下ろしており、時間の流れに身を任せてそのときが来るのを静かに待っている。 僕は悟られぬように気をつけながら、他の三人に視線をやってみる。ちらりと盗み見た程度だ。だが、どの表情も強張っていたり、この先の未来を祈るように目を閉じていたりとしていることがわかる。 今から、この家の主人である御曹司の婚約者がこの四人の中から一人選ばれる。御曹司の親友に幼馴染、母方の親戚。御曹司一人の選択によってこれからの運命が大きく変わるのだから、緊張せずにはいられないか。 じゃあ、僕はといえば……。とりあえず目の前に置かれた紅茶に口をつけてみる。そうして考えてみるも、早く終わればいいな、くらいにしか思えない。 御曹司と僕の関係といえば、高校三年間の内、一年だけ同じクラスになった。記憶の限り、それだけだ。確かにその一年の中でクラスメイトとして話した数は多い方だと思うが、他の三人に比べれば繋がりはなしに等しい。
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