選ばれたのは?

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時計の鐘が鳴る。その瞬間、広間の大きな扉が開かれた。 四人は一斉に顔を上げる。みんなの視線の先には、扉からこちらに向かって歩いてくる御曹司の姿。紺色の細身のスーツに、整えられた黒髪。その顔は気のせいかもしれないが、いつもより微かに強張っているようにも見える。 「今日はみんな、来てくれてありがとう」 御曹司はソファのそばに立つと、四つの顔を順に確かめながら言う。人を安心させる優しげな声色。今から残酷なことを告げるのだと思うと、少しだけ御曹司のことが気の毒に思えた。 「今から、婚約者を発表したいと思う」 御曹司のその言葉に、部屋全体に緊張が走るその空気に引っ張られるまま、思わず姿勢を正してしまう。そして、ごくりと唾を飲み込み、御曹司から視線を外す。 まあ、選ばれるのは三人の内の誰かだろう。視界の端に並んでいる三つの顔は皆、自分が選ばれるだろうかという不安と、今か今かと答えを待ち切れないでいる期待とが入り交じった、なんとも複雑な表情を浮かべている。 「私は、……」 御曹司が呟く。そうして足が前へ運ばれると、四人の間を進んでいく。誰かの手が拳をつくり、誰かの息が強く吐き出される。御曹司はすでに決意を固くしているようで、いっそ晴れやかになっている。 そして、御曹司は奥に座る僕の前に止まった。その身体はおもむろに跪く。 「相馬、真央さん」 覗くように見つめる御曹司。自分よりずっと背の高い頭が下にあるのも、その瞳に自分が映っているのも、この状況の全ては落ち着かずうずうずする。 「私の婚約者になってください」 「え、あっ、……はい」 驚きと、焦りと、居心地悪さと。次々に襲いかかってくる感情に、言われるがまま返事をしている自分がいた。
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