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翌日、ジュリアが僕の包帯を取り替えてくれた。頭を巻いていた包帯がくるくると取れて、ガーゼをそっと剥がされる。まぶたの向こうが、少しずつ明るくなった。
冗談だよ、びっくりした? って、言ってもらえないかな。僕はちょっとだけ、そんな期待をしてた。まぶたを開けたら普通に目が見えて、白衣を着たジュリアと、その後ろに家族が笑ってて。悪趣味だけど、そんなの全部許してあげるって思ってた。
でも、覆うものがなくなっても、僕は目を開けることができなかった。力を入れても、まぶたが上がらない。そっと触ってみると、まつ毛のあたりがガサガサしていた。
鏡を見たいと思って、次の瞬間にバカだなと呆れた。どうして見えないのかを、見て確認しようだなんて。
包帯は一週間くらいで取れるとジュリアは言ったけど、その後も目が見えるようになるわけじゃない。それを実感して、余計に悲しくなった。
「ニコロ、泣かないで。替えたばかりの包帯が濡れちゃうわ」
そう言われても、縫い合わされたまぶたの間に染み出す涙は、いつまでも止まらなかった。
ジュリアはほとんど片時も離れず、僕のそばにいてくれた。食事をとりに行く時やトイレも、済んだらすぐに戻って来る。もとは隣の部屋にあったという彼女のベッドは、僕のベッドの隣につけてもらった。
僕が泣くと、ジュリアは僕を抱きしめて頭を撫でてくれた。夜眠れないときは、子守唄を歌ったり本を読んでくれた。
まるで、お母さんみたいに。
施設のことや臓器提供についても、少しずつジュリアが教えてくれた。
「どうしてそんなにいろいろ知ってるの?」
そう聞くと、彼女は腕の中の僕の髪を撫でながら、優しく答えた。
「私がここに来た時には、この施設にはもっと人がいて、交流もあったの。自分の意思で提供者になった人もいたから、いろいろ教えてもらえたのよ」
「ジュリアも提供者なんだよね? 何を盗られたの?」
「お尻から太ももの皮膚をごっそり。火傷したんでしょうね」
ジュリアと遺伝子情報の似た、顔も知らない誰かの火傷。その治療に皮膚をあげたジュリアの肌がどうなっているのか、僕には見えない。
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