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目覚
「まだ子どもじゃないの。角膜を盗るなんて、ひどいことを……」
その声で、僕は目を覚ました。夜中なのか、真っ暗で何も見えない。いろんなところが痛いのに、頭がぼうっとしてどこが痛いのかよく分からない。
「お母さん?」
呼んだら、僕の頬をあったかい手が撫でた。僕はホッとして、その手に自分の手を重ねた。
「お母さん、なんでこんなに暗いの? それにすごく静かだよ」
「かわいそうに。自分に何が起きたか、知らないんだね」
僕は思わずその手を払いのけた。お母さんの声じゃない。それに、お母さんの手より、すべすべして柔らかかった。
「誰……?」
僕が聞いてもその人は答えず、質問を返してきた。
「どこか痛い? お腹は? お水飲む?」
「あなたは誰? ここはどこ?」
会話にならない僕たちの間に沈黙が下りる。その人は僕の手に、そっと触った。
「ここは『施設』よ。私はジュリア。あなたのお世話をすることになったの。よろしくね」
「お母さんは?」
「元気にしてると思うわ。もう、会えないけれど」
お母さんに、もう会えない?
聞き間違いかもしれない。
今はここにいないから会えないよって言ったのかな……?
ぼんやりと、痛むような気がして腕をさすった。そこは熱くて、触り心地がなんだかボコボコしている。
ジュリアが僕の手を取った。
「触らない方がいいわ。気になるのは分かるけど。焼印を押された痕は、掻くと後で痛むから」
「焼印?」
牧場で働いてる叔父さんが、牛のお尻に焼印を押すのを見たことがある。それが僕の腕に?
「そう、焼印。私にもあるわ。私は2468番、あなたは7256番」
「真っ暗なのに、どうして番号が見えるの?」
僕がそう聞くと、ジュリアはちょっと黙った。
「ここは地下だけど、電気はついてるわ。暗いと思うのは、あなたの目が閉じてるからよ。麻酔が効いているから分からないのかな」
びっくりして顔を触ったら、僕の目には包帯が巻かれていた。目隠しされてるのに気づかなかったなんて、僕の感覚はどうしちゃったんだろう。
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