思い出の郡勢

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思い出の郡勢

目を開けるとそこは、 ──楽園だった 自分にとって、何度も訪れたことのある馴染みのある綺麗な場所、この場所の広場には陽が射す中でも子供たちが戯れ、老若男女とわず、様々な人々が楽しそうにしている、眩しいほど綺麗な光景が目の前に広がる。 自然豊かなこの場所は今、ここに存在しているもの全てに対して、美しさを高めさせ、尊さを感じさせる。ここの一部に自分もなりたいと思った、そうなれたなら幸せだろうと、彼自身、今幸せを求めていた。 だが、それは今の彼が本当に求めていた幸せとは違うものだと本能に近しいもので理解出来た。 ここに来るまで大変だった、少し休むか。 立ちっぱなしだった彼は近くにベンチがあることに気づき、座ろうと腰を下ろす、しかしベンチは身体をすり抜け、彼の干渉を拒んだ。 今の状況じゃ、無理なんだな...... 彼は何となく座れない理由が分かった、彼が今の状況に対して迷いを抱いているから座れないのだと、迷った中でここに来た、この場所にはきっと彼の望む結果があると信じていた、ここは彼にとって特別な思い出の場所だから。 きっと見つける。 ここだけにあるはずの探し物を見つける為、周りを見渡し続けた。 沢山の人の幸せの郡勢が目の前を通り過ぎる中、奥にもベンチがある事に気づき遠目で見つめた、自分とは違いベンチに座れている女性がいる、気づいた瞬間心がざわめいた、彼はその女性をよく知っている。笑顔が素敵な女性だったことを、自分が最後に愛し守りたかった女性だと、人生の中で1番大切にしていたと思える程の存在だったと確かに......。 ──やっと見つけた ──だからこそ ──彼女に会いたい 今すぐにでも会いに行きたい衝動が迫ってくる、目に見える距離にいるからこそもう迷わない、会いに行こうと思えば間違うことなく行くことのできる距離に、だが、この場所からこれ以上彼女に近づいてしまうと、自分自身がこの世から消えてしまう気がした、彼女の笑った顔を見て、自分に微笑みかけてくれる、それを見たら満足出来る、だが、その満足の先に何かある気がして何故か怖かった。 でも、今の彼女は笑顔ではなく、暗く悲しそうな顔をしている、とても辛くてたまらない。 彼女に近づくことで、助けてあげられる気がしたがその場で見つめ続けた、彼女の元へ行きたい気持ちと謎の不安を天秤にかける感覚だった、数分が経った後、一瞬彼女と目が合った気がした、そんな時、少し彼女が安心したようにこちらに微笑みかけてくれたように感じられた、心做しか愛した人の笑顔が見れたと思えた、どんな時でも最後に見たかったものだ、笑顔が見れたからこそ、彼はこの場から彼女の元へ行こうと決意し、歩み寄ろうとした瞬間だった、彼女は立ち上がり、口をゆっくりと動かして何かを言っていた、何を言っているのか広場の騒がしい声の中聞こうと努力したが、聞き取ることは叶わなかった、今度は近くで聞きに行こうと歩みを再び始めたが、彼女は幸せの郡勢の中に入って見えなくなってしまった。 目的を見失った自分自身の目は喪失感という迷いよりも、これからどうするかの目的を見出していた。 ──全て思い出した 彼はそして、目を閉じた。
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