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みりがファミリーレストランから出る頃には時刻は午後四時半だった。大口の契約が取れたと電話で報告するより、会社に直接言った方がいいかもしれない。そう思い足を会社に向けたところでふと、昔の上司の言葉が頭をかすめた。
『女の武器でも使って、仕事を取ってきたんだろう』
みりが尊敬していた上司だった。
しかし、彼は自分より大きな契約を取った女の部下の業績に嫉妬し、みりに辛辣な言葉を浴びせた。
「どうしよう……」
藤崎部長はどうだろうか。
表向きは完璧ないい上司だ。食事を部下に驕る気前の良さもある、愛想もいい。茜の事も積極的にフォローしていた。しかし、腹の中では何を考えているのか分からない胡散臭い部分もある。あの白々しい笑顔は円滑な人間関係を構築する上での建前から来ている事は、みりも十分に分かっていた。第一、自分もそう振る舞っているから、見ただけですぐにわかった。でも、心の奥の本心では何を考えているのか分からない。
みりは報告をどのような手段するのがベストであるのかを考えながら、歩いていた。
自然と体はナラサキオフィスの前に来ていた。嬉しいはずの営業契約なのにも拘らず、気が重い。
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