3.フェイク

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その時、みりの携帯が震えた。表示は藤崎部長だった。 「はい」 『藤崎だ、もう定時だが直帰か、それとも一度、戻ってくるのか』 「あ、あの、ですね」 みりが返事を渋ると、なんだ、と目の前に藤崎が現れた。 「あ、部長」 「どうした、終業報告は電話でもいいが、ここまで来てるんだったら、中に入ってこいよ」 「いえ、その」 「なんだ、はっきり言ってみろ。契約を取れなかったのか? クレームつけられたのか? それとも、営業を変えろと言われたとか?」 藤崎はみりの顔を心配そうに覗き込んだ。 「違います」 「じゃあなんだ」 「貸付サービスと並行してオリジナルの食品サンプルの作製、およびタペストリーの注文を頂きました」 みりは一気に吐き捨てるように言った。なるべく嬉しい感情が乗っていないよう、淡々と聞こえるように。  それを聞いた藤崎は目を見開いた。 「本当か!? おい、やったなぁ! え、ずっと辻村が担当していた所だろう?」 藤崎は爽やかな白々しい笑顔ではなく、両頬にえくぼを浮かべて無邪気に笑っていた。 「やったなぁーっ! 辻村は優秀だと思っていたけど、信頼されていると違うな! 打ち合わせの計画も立てたのか?」 自分の事のようにビルの前ではしゃぐ三十代の男の姿にみりは吹き出したように笑った。 「ちょ、っと、部長っ! 声が大きいですって」 「大丈夫だ、まだ終業には時間があるんだから、誰も通らない。しかし、上から見た時、幽霊みたいな歩き方をしていたから、どうしたものかと思ってたんだが…、そうか、契約か! びっくりさせるなよ」 藤崎はみりの手を握って、笑った。 「え? 部長、上から見てたって、窓から見てたんですか?」 藤崎はハッとした表情を、浮かべた。 「いや、え、たまたま、だ。外回り部隊が帰ってくるかなと、思って、見てただけだ」 「あ、そうですか。完璧なサンプル部長を演じるのも大変ですね」 みりが笑うと、藤崎は、なんだ、とムッとした表情を浮かべた。 「また、サンプル言ったな。まぁ、いい。今日はお祝いだな。しかし、嬉しい出来事なのに、なんですぐに電話で報告しない? さては、優秀な辻村にとってこんな事は朝飯前なのか?」 茶化されたように感じて、みりは声をあげた。 「違いますっ!」 「何が違うんだ。言ってみろ」 みりは下唇を噛んで、藤崎を見た。
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