3.フェイク

17/23
前へ
/165ページ
次へ
 契約を取って、自分の事のように喜んだ部長。まだ一緒に仕事をし始めて一ヶ月弱しか経過していない。これから仕事をする上でみりがどんどん契約を取り始めると流石に疎まれる可能性も高くなってくる。  現段階でそれを危惧しています、などと言える程、みりはまだ藤崎のことを信用してはいなかった。 「わ、私にしては、すごく大きな出来事だったので、嬉しすぎて放心していただけです」 藤崎は笑った。 「辻村は優秀だよ。この契約もきっと地道な仕事の姿勢を、店側との付き合いをしてきて結果だろう。自信を持て!」 藤崎はそう言って、みりの両肩を持った。  色素の淡い髪が揺れて、両頬のえくぼはくっきりとし、無邪気に笑っている部長。今までの上司とは少し違う、有能だけれど、それだけではない。 「部長……、その、えーっと……」 励ましてくれてありがとうございます?  私の能力を認めてくれて嬉しいです?  何を口にしようか迷っていると、藤崎は、ん? と首を傾げて正面にいるみりを見た。 「部長、私、頑張っていいんですか?」 みりの言葉に藤崎は頷いた。 「もちろんだ。今でも十分頑張ってるぞ。何を心配しているんだ。辻村は自由に仕事をすればいい、そして、困ったらすぐに相談しろ」  みりはその言葉に、少し泣きそうになった。けれど、悟られないように目に浮かびそうになる涙を我慢した。 藤崎は、じゃあ、俺は残りの仕事を片してくるわ、と上司の仮面を忘れた口調でそう言って、ビルの中に入って行った。 みりはカバンの紐をぎゅっと握って、その背中を追いかけた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

977人が本棚に入れています
本棚に追加