3.フェイク

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 今日は金曜日。時刻は十九時前で、OLとサラリーマン、若いグループ客も座敷には何人か来ており、店内は賑わっていた。 「どうぞ、さっきのサンプルおたくトーク続けてくれてもいいぞ」 藤崎はニヤニヤしながらみりを見た。みりは生ビールを口に入れて、枝豆に手を伸ばした。 「サンプルおたくトークってなんですか。部長、さっき、会社で、自由に仕事しろって言って格好つけてたじゃないですか、ちょっと見直してたのに」 その言葉に藤崎は、眉を寄せた。 「なんだ、見直すって。俺は辻村の前ではいい上司だろう」 「本当にいい上司は自分でいいとか言わないんですぅー」 藤崎は、確かに、と笑った。 こんな時、藤崎の方が何枚も上手だと言う事に気づかされる。大人の対応というか、裏表の性格の差があっても根本的に相手を尊重する姿勢が垣間見えてしまう。 「尚ちゃん、生一つ」 「あいよっ! 出汁巻卵も?」 「うん、よろしく」 藤崎は着ていた背広を脱いで、椅子に掛けた。手荒くネクタイ緩めて、両腕をぐるぐると回し、伸びをした。 シャツ越しに肩幅と無駄な肉がついていない、逞しい背中に、一瞬みりはドキッとした。 「なんだ? 何か言いたい事があるのか?」 「い、いえ」 尚ちゃんは生ビールをカウンターの上に置いた。 「部長もお酒飲まれるんですね」 「敬語はいらない」 「でも……」 「ここでは対等って言っただろ」 「上司にタメ口は無理ですよ」 「じゃあ、辻村の本性をバラす」 「ちょ、そ、それ、脅しじゃないんですか?」 「そうだ、脅している」 「み、認めたっ! どこが良い上司!?」 みりが声を上げると、藤崎は大声で笑った。 「そうそう、そんな感じで。俺もちょっと気を抜くし」
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