3.フェイク

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「伊坂、仕事の事か?」 「……うーん、部長には関係ないです」 藤崎は手を止め、みりを見た。 「関係ない事はないだろう。俺の部下だ」 「じゃあ、仕事じゃないので、ますます関係ないです」 みりと言葉に、藤崎は眉を寄せて、ビールのグラスを持った。くいっと喉に流し込んだ。 「何ですか? 何で、部長が怒るんですか?」 「怒ってない」 「いや、怒ってますよ」 その様子を見ていた尚ちゃんが二人の間にお皿をドンと置いた。 海鮮チヂミで、中にイカとタコが入っていた。焦茶色の照りと焦げがバランスよく表面を彩り、周りがパリパリで、胡麻の香ばしい匂いが広がった。 「まぁまぁ、これでも食べて。せっかくみりちゃんいい仕事ができたんだろう? 契約取れたって喜んでたからね。これは店からのお祝い」 「やったー、尚ちゃん、ありがとうっ!」 カウンターの周りにチヂミのタレに入っている、にんにくおろしの匂いが広がり、みりの食欲を刺激した。
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