如月かれんは二百二十二回死ぬ。

10/51
前へ
/51ページ
次へ
「まったくもって理不尽な話だ。世界はわたしを誤解している。」 「世界が? 誤解して?」 「ああ。誤解も誤解。ひどい誤解だ。わたしは確かにここにいる。まだここに生きて存在して。それは確かな事実だろう? おまえはたしかにわたしを見ている。わたしに触れて、この体温を感じることさえできる。だろう?」 「ま、まあそれは、そりゃ、そうでしょう――」 「だが。しかし世界は、それを認めない。未だに誤解をしたままだ。この世界は冷徹に冷酷に―― あるいは軽率に、と言うべきだろうか。世界はいまだにわたしのことを誤解し続けて―― いまここに、わたしはいないものとして、わたしのことはまるで無視だ。ひどい話だ。あまりにもそれは理不尽だろう?」 「最初の何度かは、もちろん、戸惑った。混乱した。パニックになった。泣きそうになったし、実際に何度も泣いた。なにしろここには、自分の存在を認めてくれるものが、自分の存在の証拠が、何一つないからだ。自宅の場所に戻っても、そもそもの家そのものが消失している。ちなみに家は、千里ケ丘の外れにあるのだが(あったのだが)―― しかし今そこにあるのはまったく別の建物だ。そこに住むのは、まったく知らぬ他人。そこにいたはずの両親も、ひとつ違いの妹も―― 何もかもが消えている。学校に行っても同じだ。わたしを知る者は誰もいない。学籍そのものが消えている。市役所に行ってみたこともある。が、戸籍そのものが存在しない。そのような人間はもともといないと言われる。きっと何かの間違いだ、と。これは少し、つらい。ここにこうして生身として生きているのに、『お前はいない』と言われるのだ。ショックだぞ、それは。心が引き裂かれるとは、よく言ったものだな。まさにそんな感じだ。まあしかし、さすがにもう、慣れた。そのような理不尽な世界設定の何もかもに。なにしろそれを、二百二十一回繰り返した。今回で二百二十二回目だ。さすがにもう、諦めたな。今さらそのことでへこんでも仕方がない。」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加