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そしてわたしたちが(ムリヤリに強制的に)移動したのは、
家の南側、庭に面した縁側でした。
いまどき珍しい純和風のわが家には、なかなかに広い、立派な縁側があります。外はもうすっかり暗く、庭の草木は黒々と闇に沈んで、その向こうは、崖のような急な斜面になっています。つまりこの家は、高台の住宅街のいちばん端、街並みが途切れて終わる場所に位置しているのです。おかげで見晴らしがよく、縁側に座ると、ここからは街の夜景が―― ずっと丘の下に広がる川西市中心部の明かり、さらに向こうの伊丹や西宮方面まで、ずっと続いて綺麗に見えるのです。
「何度見ても良い。贅沢な眺めだな、ここは。」
清涼飲料の缶を開けながら、かれんがしみじみと言いました。
「そ、そうかな?」
「そうだ。なかなかないぞ。自宅の庭からこんな夜景が見える家は。」
「ん~、ずっとここに住んでると、なんだか当たり前になっちゃって、そんなに贅沢とか、思ったことも――」
「それよりどうした橡原? ん? なんだ、飲まないのか? まだ缶も開いていないようだが?」
「え、って、ちょっとそれ、それってひょっとして、お酒じゃ――」
グビグビと喉を鳴らして飲料を流し込むかれん。その手が持っているのは、明らかにあれは、チューハイ系のお酒―― さっきの買いだしのどさくさにまぎれて、あんなものを買い込んでいたなんて――
「なに、心配ない。この程度の度数のものは酒のうちには入らんよ。」
「って、しっかりそれ、入りますから!」
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