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「まあ、今ふりかえれば、笑い話のようなものだ。若気の至り、ある種の自暴自棄だな。どうせ死ぬなら、楽しみたい。一度も男とやらずに死ぬなんてあんまりだ。いろいろもっとその方面もよく知ってから死にたい。いろいろもっと、深めたい。探究したい。などと。バカなことを考えた。そして実際行動に移した。」
「……。。」
「まあしかし、それはそれで、結果はあまり、かんばしくなかったな。しばらくあれこれ、いろんな男とあちらこちらでやりにやってやりまくってから―― それから気づいた。そういう男との何もかもが、所詮はむなしい。第一そんなにどうしてもやりたければ、ひとりでじっくり処理するほうが、じつは何気に気持ちがよいとかな。いろいろ、学ぶところもあった。」
「…ひ、ひとりでじっくり、ですか――」
「まあしかし、そんなものも、けっきょく空しい。男と寝ても、たいして良いことは何もない。しかもそれが、自分が特に好きでもない男どもであれば、なおさらのことだ。それにだ、ひとりでやるのも、しまいには飽きる。それ以上の深みが何もない。だからある時から、そういう何もかもを止めてしまった。空しい。つまらん。しょうもない。」
かれんはそう言って、なんだか妙に老成した、諦めたような目で、どこか遠くの空を見上げました。
「で、結局何があとに残るかと言うとだな、そう、たとえば――」
「た、たとえば?」
そこにいったい、どんな答えが投げられるのかと。
わたしは初めて、ちょっぴり好奇心が湧いて、かれんの瞳を――
その、どこか不思議なすみれ色の目を、まっすぐじっと、見つめ返しました。
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