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「おーい、橡原。遅いぞ。ちゃんとついてきてるのか?」
「って、かれんがそれ、速すぎるのよ~。もうちょっとゆっくり――」
「あまりゆっくりしてると、蛍の時間が過ぎてしまうぞ。」
「蛍って―― 別に急にいなくなるわけじゃないでしょう――」
「ある時間を過ぎると、一気に光が少なくなるのだ。時間勝負だ。」
「それってホントの話? なんだかなぁ… って、もう、ちょっと待ってってば~。」
そうして何とか、それでもなんとか、
わたしはそこに、着きました。
鬱蒼と木の茂った山の中、急にぽっかりと見通しの開けた、
森の中の広場のような―― そこだけ空が見えていて――
どこか近くで、ざぶざぶと水が流れる音――
「うそ。信じられない。」
光の中に、かれんが立っていました。
小さな黄色とオレンジが混じり合う、飛び交う光の渦の中――
一種異様な、瞬く光に包まれて、かれんがそこに、背中をむけて立っており――
「どうだ。綺麗なものだろう?」
満足そうに、くるりと振りかえったかれん。
その髪にも肩にも―― いくつもの蛍が――
まるで光のジュエリーみたいに、かすかに小さく瞬いて――
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