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「――信じられない。家の近くに、こんな場所、あったなんて――」
わたしは立ちつくしました。
なにか現実の景色とは思えなくて――
なにか遠い、遠い遠い、淡い昔の夢の中に立っているみたい――
わたしとかれんは、森の広場の真ん中あたり、そこの草の上に、
ふたり並んで寝そべって、そこから夜空を眺め――
その空と地面の間を流れる、無数の光――
夜の森を音もなくただよう蛍の乱舞を――
時間も忘れて、言葉も忘れて、ただただ二人で、見ていました。
でも、ある時がくると、
蛍の光の乱舞が、ふっと急に、明るさを落として――
飛び交う光の数も、さっきほどには、多くなく――
なんだかまるで、ひとつの祭りが、急に終わってしまったみたいに――
あたりをとりまく夜の森の闇が、急にぐっと深くなったようでした。
「な? 言った通りだろう。時間勝負なのだ。今夜の蛍は、そろそろこれで終わりだ。」
「うん――」
「どうだ? 来て良かったか?」
「え? う、うん、それはもちろん。まさかこんな、すごいとは――」
「わたしもこの場所が好きでな。ついつい何度も来てしまう。そして何度来ても、またもう一度ここに来たいと、そのたびに思ってしまうのだ。もう百回以上も見ているのに。まったくおかしなものだな。何度見ても何度見ても、やはりここの蛍は素晴らしい。大好きなのだな、ここが。この夜の、この時間が。」
かれんはそう言って笑いました。笑ったかれんの髪の上で、一匹の蛍が、まるで高貴な宝石の髪留めみたいに―― 静かにかすかに、いつまでも光っていました。
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