如月かれんは二百二十二回死ぬ。

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7  でも、七月に入ると、かれんの様子がなんだか少し変でした。  無口になったというか―― 物思いにふける時間が増えたというか――  わたしがお風呂から上がって部屋に戻ると、かれんはいつものようにマンガを読むでもなく、お気に入りのクロスワードパズルを解くでもなく―― ただただ床に寝転がって、なんだか焦点の合わない目でぼんやり天井を見つめており――  どうしたの? 近頃なにか元気なくない?  そう言ってみても、かれんはかすかに、力なく笑って言うのです。 「ん。まあ、いろいろ、物思う年頃なのだ。だが、特には何か、あるわけでもない。心配は無用だ。」  まあでも、さすがにここ数日、なんだかテンションが低すぎるなと思って。食事の量も、前よりなんだかだいぶ減ってるし―― かれんの好きなホイップクリームのイチゴ大福を山ほど買ってきても、そのままひとつも手をつけないまま翌朝まで冷蔵庫の中に残っていたりもするし―― 「ねえかれん、ほんと大丈夫? 病気とか、何かあるんじゃない?」  ある夜わたしは、問い詰めました。  いかにも梅雨らしい、根気強くどこまでも雨の降り続く、ムシムシとした夜。  お風呂上り、サイズ違いの白のシュミーズをだらりと着流して、  夜食のプリンを無言で神妙にことさら長い時間かけて食べるかれんを、  何度もしつこく問い詰めて―― ようやくかれんが言いました。 「まあ、そうだな。隠していても仕方がないか――」  神妙な顔でそう言って、小さなスプーンを静かにテーブルの上に置きました。
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