如月かれんは二百二十二回死ぬ。

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 そんなとき。  おまえはわたしに、傘をさしかけてくれた。  どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?  おまえは心配そうに、わたしのそばに座って――    おまえはわたしに、声をかけてくれた。  泣きじゃくるわたしのそばで――    ははは、おまえはわたしが泣きじゃくるとか、今では想像もできないだろう。  でもわたしも、泣くときは泣く。あのときは、だからほんとに――  おまえのことが、女神に見えた。  大げさかもしれないが、おまえに思いきり抱きついて、  抱きついて抱きついて、  そしてありがとうと。言いたい気持ちだった。  本当にありがとう。わたしを見つけてくれて、本当にありがとう、と。    言いたかった。    まあさすがに、あのときは――  そう、あのときでさえも、そんな言葉は、さすがにわたしの口からは言えなかったがな。  わたしはただそこで、涙に声をつまらせて――    行く場所が、ないんです。  どこにも行く場所がないんですと。そう言うのがやっと、精一杯だった。  お前はしばらく考えて、それから言った。  じゃ、とりあえず、うちに来る? と。  小さくわたしに微笑んで、おまえはわたしの手をとった。  あのときのお前の手のぬくもりは、もうけっして、忘れもしない。  何度死んでも、忘れもしないよ。忘れられるはずもない。
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