如月かれんは二百二十二回死ぬ。

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 では、わたしは行く。  元気でな、橡原。お前のいるその時間軸では、おまえはもう二度と、わたしに会うことはないだろうけれど――  それでももし、できるなら。  いつかちらりと、思い出してくれ。  あのとき、あの雨の季節、  いきなり家に転がり込んできた妙なヤツと、  ふたりで過ごした、その時間。  いろいろ何も、たいしたこと、特別なことなど、  そこでは特に、何もなかったのかもしれないが、  だがその、何もなかった、とても普通の、  だが、その、普通な普通な、  とても普通な、その特別なひとときのことを。  ときには少し、思い出してくれたら。  それだけで、わたしはきっと、幸せに思うだろう。    それではな、橡原。いろいろ長く書いてしまった。  ともかくあれだ。このあともお前は、幸せにな。  そこでの毎日を楽しんでくれ。おまえと一緒にいられない、わたしの分まで。
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