11人が本棚に入れています
本棚に追加
では、わたしは行く。
元気でな、橡原。お前のいるその時間軸では、おまえはもう二度と、わたしに会うことはないだろうけれど――
それでももし、できるなら。
いつかちらりと、思い出してくれ。
あのとき、あの雨の季節、
いきなり家に転がり込んできた妙なヤツと、
ふたりで過ごした、その時間。
いろいろ何も、たいしたこと、特別なことなど、
そこでは特に、何もなかったのかもしれないが、
だがその、何もなかった、とても普通の、
だが、その、普通な普通な、
とても普通な、その特別なひとときのことを。
ときには少し、思い出してくれたら。
それだけで、わたしはきっと、幸せに思うだろう。
それではな、橡原。いろいろ長く書いてしまった。
ともかくあれだ。このあともお前は、幸せにな。
そこでの毎日を楽しんでくれ。おまえと一緒にいられない、わたしの分まで。
最初のコメントを投稿しよう!