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「おいこら。痛いぞ。もう少しゆるく抱け。」
「どうして?? なんでここに? もしかして幽霊?」
「バカ。ちゃんと生きている。ほら、もう一度ここ、触ってみろ。ちゃんと確かに、やわらかいだろう? 心臓もちゃんと、ほら、動いているだろう?」
「かれん! ほんとに生きてるんだ! 死んでなかったんだ!」
「いや、確かにわたしは死んだと思う。わたしはあのとき、あそこで――」
かれんはちょっぴりきまり悪そうに、ぽりぽり、爪の先で自分のこめかみを掻きました。
「だが、わたしにも。わからない。どうやら、戻る時間を間違えたらしい。いつもなら、あの六月の、あの大雨の夜に巻き戻る―― だけど今回は―― 今回だけは違った。なんだか別の場所に、戻ってしまったようだ。いや、むしろ、少し先まで、早送られてしまったと言うべきだろうか、」
「――早送られて?」
「いや。どうだろう。わたしもよくはわからない。正直少し、戸惑っている。今までなかったパターンだ。これまでの傾向と対策は、まったくここでは通用しない。初めてだ、ここにこうして、やってきたのは。この季節にまだ、死なずにここで、お前と話をしているなど――」
「生きてるよ、かれん! ちゃんと生きてる!」
「ああ。それだけはどうも、確かなようだ。わたしはまだ、生きている。ここでまた、生きている。だが、少しなんだか、怖い感じもするな。あまりにも初めて過ぎる。あまりにも初めてな展開すぎて――」
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