11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、それって全部、冗談―― だよね?」
「いや。全部、真面目な話だ」
「嘘―― でしょ? からかってる?」
「からかっていない。いや、参るな。この問答は、毎回毎回、多くのエネルギーを消費する。いい加減、そろそろ――」
「でもあれ、いまさっき、昨日―― 死んだって、言った?」
「言った。死んだ。」
「もちろんそれも冗談――よね?」
「冗談ではない。本当に死んだ。正真正銘、現実の死亡だ。まあ、わたしも慣れてはいるが、だが、いつもそれなりに恐怖はあるな。愉快な体験ではない」
「そ、それって、でも、どうやって―― 死んだ、の?」
「心臓発作、だろうな。簡単に言えば。」
さらりと、少女は言いました。なんだかもう、何かを諦めたように、さばさばと。
「痛みがないかと言えば、ある。あれはけっこうキツいぞ。だが、短時間のことだ。むしろ痛みよりは、その時間が近づいて来る、その恐怖心のほうが大きい。慣れてはいるといっても、何度死んでもやはり、死は、あくまで死だ。口で簡単に言うほど、簡単なことではない」
少女はどこかむかってひとりで言って、それからくるりとこちらを向きなおり、
なんだか無邪気に、にこりと笑いました。小さな子供みたいな笑顔で。
「しかし、また会えてうれしいぞ、橡原。おまえとまたこうして会話できることが、どれほどわたしに喜びをもたらすのか、たぶんお前にはわからないだろう。おそらく――」
「え? な、何、何なのこれ――」
「また会えてうれしい」
少女がわたしを、いきなり、深く抱きしめました。
とても強く、何の前触れもなく――
歩道の上で、なすすべもなく立ち尽くすわたしを――
「会いたかったぞ、橡原」
最初のコメントを投稿しよう!