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「…すまない。」
少女が、神妙な顔をして、ベッドの上に小さく座り直しました。
「いろいろと無神経だった点は謝る。だが、理解してほしいのは、わたしには、ほかには行く場所など、もうひとつも、ないということだ。ここ以外、ないのだ。行く場所など―― どこにも――」
「えっと、それってつまり――」
わたしは、なんだか勢いをそがれて、口ごもりました。
「家出とか? そういうの?」
「いや。そういうことでもない。」
「そういうことでも?」
「つまり、根本的に居場所がないのだ。行く場所がない。いまここ、この時間、この場所では――」
「つまりだ。わかりやすく言うと、わたしはもう、この世にはいない扱いになっている。いまここの、この時間には、ということだが。仕組みはよくはわからない。だが、事実だ。わたしはここに、戻ることはできる。何度でも、何度でも。いや、戻らざるを得ない、と言うべきか。私の方には、選択の余地というものがまるでないからだ。だが、ここに戻ったわたしには、残念ながら、受け皿のようなもの―― 家族も、家も、戸籍すらも―― わたしという人間が存在していた痕跡が、ここにはひとつも、ない。まったく何もないのだ。」
「えっと―― 戸籍もないとか―― それって――」
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