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世界はわたしを誤解している。
かれんはあのとき、そう言いました。
世界はわたしを誤解している、と。
世界はわたしを――
いや。それとも誤解していたのは、かれんの方で―― 世界はたしかにはっきりと、最初からすべての真実を冷徹に冷酷に、隅から隅まで、残酷なまでに知っていたのかもしれません。
まあしかし。
今となっては、それもどちらでも良いことかなとも思います。
夏の初めにかれんが死んでしまって、
わたしはもう、何もかも、どちらでもよくなってしまいました。
かれんはもう、いない。ここにはもう、いない。
それが、この世界にひとりで残された、
わたし、橡原メル(くぬぎはら・める)にとっての、
たったひとつの、単純すぎる事実なのですから――
そう。これはかれんの物語。
つかのま、初夏のひととき、この街で生きて、この街で笑い、そしてこの街で死んで灰になった、ひとりの少女の物語です。
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