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スマホを操作する。私の指捌きは掌の中のテクノロジーを上回っているらしく、思うように画面が素早く切り替わらなくて、苛立ちが募っていった。
「ちゃんと出てよね」
タップしたのは通話ボタン。昨今、恐いニュースも多いものだ。まさかとは思うが、息子が何か事件に巻き込まれていやしないか。そんな可能性を捨てきれないと思うと、呼び出し音がいつも以上に悠長な気がして腹が立つ。
「何?」
「もしもし? 希夕? 大丈夫なの?」
「何が? あ、雨のこと?」
返ってきたのは、のんびりとした息子の声。安堵と共に、体にまとわりついていた緊張感が解けていく。
「あんた、今どこにいるのよ? 心配してたんだから」
「まだ駅だけど。雨やまないし、腹減ってたからコンビニでチキン買って食べてた」
「嘘、何それ。夕飯もチキンよ」
「えー」
この頃には、もうすっかりいつも通りの私だ。
「それより! あんた、傘持って行くの忘れたでしょ?」
「そうそう。ちょうど良かった。迎えに来てよ」
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