雨の日に君を想う

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雨の日に君を想う

 鍋の中で、味噌を溶かす手を止める。湯気の向こう、壁の時計に目を遣ると、先程スマホが鳴ってから、早三十分も経っていた。  塾帰りの息子が、定期を使って最寄り駅の改札から出てくると、自動的にメールが届くようになっている。着信音は他と別のメロディを指定しているので、間違えようがないのに。 「遅いわね」  エプロンを外しながら玄関へ向かう。ドアを開けてマンションの廊下に顔だけ出すものの、人気は無かった。聞こえるのは雨音だけ。  がっかりしながら扉を閉めると、傍らにあった傘立てに膝が当たった。その中から、見慣れた紺のチェック柄がこちらを気不味そうに見上げている。 「朝、あれ程言ったのに」  今日は珍しく仕事が早く終わって、一番に帰宅していた私。手早く夕飯を作っている途中、窓が予報通りの雨で濡れ始めたのは知っていたが、息子が傘を持って行き忘れたことには今気がついた。 「もしかして」  我が家は、駅から徒歩十五分もかかる。息子は荷物が重くなるからと言って、折り畳み傘を持ち歩く習慣はない。となると、今頃、改札から出た辺りで、途方に暮れているのだろうか。 「仕方ないわね」
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