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何度か入ったことのある居酒屋だが、今日はひと味違う騒がしさだった。鬱憤を晴らすかのように皆が声を上げる。そんな喧噪の奥にある気持ちが理解できてしまうのは、もしかすると悲しいことかもしれない。
何故なら、自分も周りも目の前で四杯目の中ジョッキを空けた井馬凛々子も、皆クリスマス難民になるのが確定しているからだ。
「わたしをそんなのに巻き込まないでよ……」
凛々子は小さくて丸っこい顔を歪めた。拒絶反応丸出しの表情だが、見ていて何故か楽しくなってしまう。
「良いでしょ、どうせ事実なんだから」
信楽美也子はやけくそ気味に言い放った。友人とはいえ、結構ひどいことを言っている自覚はある。しかし自分も同じ立場なのだから五分五分だ。
「まあね……。あと一週間なんだけど」
「見込みは?」
「ないよ」
「じゃあ同志よ。当日はうちでケーキ食べようよ」
「……何か余計に寂しくなりそう」
社会人になってから凛々子を家に上げたのは何度かある。最近だと酔いつぶれた彼女をタクシーに乗せて連れ帰った五月の頃だ。昼頃まで全く起きなかった凛々子の痴態が頭をよぎったが、今日はまだ、まともに喋っている。
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