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春の風が湿りを帯び、雨が降ってきた。出勤途中の僕は茫洋とバス停までの細い砂利道を歩いていた。顔に降りかかってきた雨水、さりとて傘を開く気にはならなかった。鉛色の雲が上空に君臨し、少しひんやりとした風が頬を撫でる。僕はバス停までの道を急いだ。
バス通りに出ると僕は待合室として利用されている簡易なトタン小屋に避難した。どんよりと曇った空、屋根を叩く静かな雨音、静寂に包まれた朝のバス停。そこには僕以外にはだれもいなかった。
バスが来るまでにはまだ5分ほどある。昨夜は遅くまで本を読んでいたので自然と欠伸がでる。僕は薄目を開け、ただぼんやりと眼前の見慣れた光景を眺めていた。
ミャーー。子猫の鳴き声が聞こえた。僕はおもむろに声のする方向を見た。小さな三毛猫が僕の隣にちょこんと座っていた。まだ生まれて1か月ぐらいの子猫だ。青いベンチのうえで子猫は小刻みに震えていた。
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