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special short・1《チョコとサンタとクリスマス》
──今頃、辻村も家族とケーキを食べているのだろうか。
そんなことを思いながら、ケーキを切り分け、皿に乗せる。…あっ、チョコのプレートが傾いた。
「こりゃあ、凄い量の苺だな」
酒も飲むが、甘いものも大好きな祖父の心に、まるごとの苺が並ぶケーキの断面はダイレクトに響いたらしい。早速、ケーキの皿に手を伸ばしてきた。
「辻村のオススメだからね。──あっ、じいちゃん、そっちのケーキは取っておいて!」
ちょっとだけ傾いてしまった、チョコのプレートが乗ったケーキに手を伸ばそうとするのを慌てて止めれば、祖父が子供みたいに口を尖らせた。
「…何だ、こっちは小僧にか? ワシだってチョコが乗った方がいいのに…」
「………」
──チョコくらいで、そんなふて腐れなくても…。
チョコのプレートに記された“merry christmas”の文字を恨めしそうに見ながら呟く祖父に、小さくため息をつく。
──僕が似ているという亡き祖母は、この祖父のどこらへんを好ましく思って、結婚したんだろう…。
僕が生まれる前に亡くなっているから、真相を訊ねられないのが悔やまれる。
「チョコくらい、別にいいだろ。…ほら、おれの苺、1つあげるから」
僕の分のケーキから、苺を1つ移動させれば、斜めに傾いた祖父の機嫌は、ようやくもとに戻った。
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