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special short・1《チョコとサンタとクリスマス》
「じいちゃん、緑茶でいいよね?」
珈琲が苦手な祖父のために、2人分の緑茶を淹れていると、待ちきれなかったのか、祖父がケーキを頬張る。
「うーん、こりゃあ絶品だな。あまねさんがオススメするのも納得だ」
フォークを手に、満足げに笑う祖父を見て、辻村の言う通りにして良かったな、と思った。
──辻村はたまに、僕より正確に、祖父の好みを知ってるからな…。
これじゃ、どっちが本物の孫だかわからないな…と、内心で苦笑しつつ、僕もケーキを食べてみた。
ふわふわのスポンジに、濃厚なミルクそのままのような生クリームと、瑞々しくて甘酸っぱい苺。飾りに散らされた、刻んだピスタチオの緑。この上なくシンプルな組み合わせだけど…うん。確かに美味しい。
美味しい、けど──
「…海渡、どうかしたのか?」
反応のない僕に、祖父が怪訝な目を向けてくるので、慌ててかぶりを振った。
「ううん、何でもない。…美味しいね、これ。来年のクリスマスも、このケーキにしようか」
「そうだなぁ。このケーキなら、毎年じゃなく、毎月食べてもいいな」
「確かに、飽きがこないよね、苺のショートケーキって」
祖父と2人でケーキを頬張りながら、ふと思った。
綛谷も一緒だったら、きっと、もっと美味しく感じたはずなのに──と。
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